最新記事

感染症対策

トランプが頼った簡易検査の罠 ホワイトハウスさらなる感染者も

2020年10月5日(月)21時34分

しかしID NOWに対しては、研究者の一部から正確性への疑念が出ていた。

ニューヨーク大学が5月に発表した研究では、この装置が感染者の3分の1から場合によっては半分近くを見落とす恐れがあるとされた。同月にコロンビア大学アーバイン・メディカル・センターの研究者も、検査の的中率が73.9%にとどまったとしていた。

米食品医薬品局(FDA)も5月、ID NOWの不正確さの可能性を巡る懸念を認めていた。9月30日時点でFDAに関連の有害事象302件が報告されており、多くの偽陰性が含まれていたことも発表した。9月に改定されたFDAの緊急使用許可承認では、結果を確認する追加検査実施が妥当かもしれないと警告した。

アボットはニューヨーク大学の研究については今月2日、調査に欠陥があり、問題点が多数あるとする声明を発表。ID NOWの結果はPCR検査と類似しており、患者の感染サイクルによっては最も感度の高い検査でも偽陰性の判定はあり得ると反論。同社広報担当者は、感染直後にウイルスを検知できる検査手段はないとも述べた。

トランプ氏についてはホワイトハウス専属医のショーン・コンリー医師が2日、PCR検査で感染を確認したと公表している。

かえってウイルス拡散も

トランプ氏はID NOWでの自分や側近らへの日常的な検査で意を強くし、マスク着用を義務づけない大規模な選挙集会や献金者とのイベント開催を続けた。1日にはニュージャージー州に飛んで資金集めのゴルフイベントに参加、演説もしていた。ホワイトハウスのマケナニー報道官は2日、「社会的距離を取っていたし、屋外イベントだったし、ホワイトハウスの運営によって大統領の参加は安全であるように見えた」と語った。

トランプ氏や側近らはいつもマスクをしていなかった。先月の議会証言でマスク着用の重要性を訴えた米疾病対策センター(CDC)のレッドフィールド所長をトランプ氏は公然と否定していた。9月29日の第1回大統領選候補討論会では、民主党候補バイデン前副大統領がしょっちゅうマスクをしているとけなしていた。「私は彼みたいにはマスクをしない。彼は見るといつも、マスクしている」と発言していた。

専門家によると、ホワイトハウスが新型コロナを防ぐために検査ばかり重視していたツケは、大統領やメラニア夫人を超えてかなり広範に広がる可能性がある。サウスカロライナ医科大のクッパリ氏は、ホワイトハウス関連で「陽性判明はもっと増えると思う」と話し、「そうならないことを祈っているが」と付け加えた。

[ロイター]


トムソンロイター・ジャパン

Copyright (C) 2020トムソンロイター・ジャパン(株)記事の無断転用を禁じます


ニューズウィーク日本版 ハーバードが学ぶ日本企業
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年9月30日号(9月24日発売)は「ハーバードが学ぶ日本企業」特集。トヨタ、楽天、総合商社、虎屋……名門経営大学院が日本企業を重視する理由

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら



今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

アングル:米国目指すインド人学生に試練、トランプ政

ワールド

国連の対イラン制裁復活へ、安保理で中ロの延期案否決

ワールド

トランプ氏、ウクライナへの長距離兵器供与・使用制限

ビジネス

米国株式市場=反発、PCEがほぼ予想通り 週足では
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ハーバードが学ぶ日本企業
特集:ハーバードが学ぶ日本企業
2025年9月30日号(9/24発売)

トヨタ、楽天、総合商社、虎屋......名門経営大学院が日本企業を重視する理由

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    トイレの外に「覗き魔」がいる...娘の訴えに家を飛び出した父親が見つけた「犯人の正体」にSNS爆笑
  • 2
    iPhone 17は「すぐ傷つく」...世界中で相次ぐ苦情、Appleはなぜ「未来の素材」の使用をやめたのか?
  • 3
    【クイズ】世界で1番「がん」になる人の割合が高い国はどこ?
  • 4
    琥珀に閉じ込められた「昆虫の化石」を大量発見...1…
  • 5
    砂糖はなぜ「コカイン」なのか?...エネルギー効率と…
  • 6
    高校アメフトの試合中に「あまりに悪質なプレー」...…
  • 7
    週にたった1回の「抹茶」で入院することに...米女性…
  • 8
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 9
    中国、ネット上の「敗北主義」を排除へ ――全国キャン…
  • 10
    【クイズ】ハーバード大学ではない...アメリカの「大…
  • 1
    カミラ王妃のキャサリン妃への「いら立ち」が話題に...「少々、お控えくださって?」
  • 2
    数千円で買った中古PCが「宝箱」だった...起動して分かった驚きの中身
  • 3
    筋肉はマシンでは育たない...器械に頼らぬ者だけがたどり着ける「究極の筋トレ」とは?
  • 4
    日本の小説が世界で爆売れし、英米の文学賞を席巻...…
  • 5
    【動画あり】トランプがチャールズ英国王の目の前で…
  • 6
    1年で1000万人が死亡の可能性...迫る「スーパーバグ…
  • 7
    コーチとグッチで明暗 Z世代が変える高級ブランド市…
  • 8
    トイレの外に「覗き魔」がいる...娘の訴えに家を飛び…
  • 9
    「ミイラはエジプト」はもう古い?...「世界最古のミ…
  • 10
    iPhone 17は「すぐ傷つく」...世界中で相次ぐ苦情、A…
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 4
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれ…
  • 5
    カミラ王妃のキャサリン妃への「いら立ち」が話題に.…
  • 6
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 7
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 8
    「怖すぎる」「速く走って!」夜中に一人ランニング…
  • 9
    東北で大腸がんが多いのはなぜか――秋田県で死亡率が…
  • 10
    科学が解き明かす「長寿の謎」...100歳まで生きる人…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中