最新記事

米中対立

ポンペオ米国務長官の「対中苛烈批判」に見る中国理解の浅さ

2020年7月27日(月)16時30分
ジェームズ・パーマー(フォーリン・ポリシー誌シニアエディター)

中国国民との連携を目指すと語ったポンペオだが(7月23日) KENT NISHIMURA-LOS ANGELES TIMES/GETTY IMAGES

<演説で中国政府を「独裁的」と批判したポンペオ。「中国の人々と関わり、力を与える」と述べたが、その対中強硬路線には落とし穴がある>

7月23日、ポンペオ米国務長官は、対中政策に関する演説で中国への苛烈な批判を展開した。「(中国は)国内ではより独裁的になり、世界では自由への敵対姿勢をより強めている」と言い切った。

ここ数カ月、米中の対立が深まっている。7月21日には米政府が在ヒューストン中国総領事館の閉鎖を突如求め、24日には中国政府が四川省成都の米総領事館の閉鎖を要求。ポンペオはこれ以前にも、南シナ海に関する中国政府の主張に明確に反対する声明を発表していた。

ポンペオが示した考え方は、最近ワシントンで広がりつつあるものだ。歴代の米政権は中国政府と暗黙の取引をして、経済成長により双方が経済的恩恵を受けるのと引き換えに、中国に対するイデオロギー的批判と地政学的封じ込めを抑制してきた。だがポンペオのように、この姿勢は誤りだったと考える人が増え始めている。

ポンペオは演説で、米政府の新しい対中戦略を打ち出した。それは、「中国の人々と関わり、力を与える」というものだ。「中国の人々は、自由を愛する活力旺盛な人たちであり、中国共産党とは明確に区別すべきである」とのことだった。

しかし、この戦略がうまくいくかは疑わしい。共産党は中国の人々の暮らしと密接に結び付いているし、「共産党なくして新しい中国はない」というスローガンは小学校でも教え込まれている。

汚職の蔓延や新型コロナウイルスへの対応など、個別の問題に関しては、政府に怒りを抱いている国民も少なくない。それでも、その不満が共産党体制の終焉を望む考え方を直接生み出していることを示す材料はない。共産党を嫌っている国民も、敵対的な外国政府との対立では共産党政権の味方をするだろう。

そもそも、トランプ政権はこれまで「中国の人々と関わり、力を与える」ことを全くしてこなかった。トランプ大統領は中国への差別的な発言を繰り返し、米政府は中国国民へのビザ発給を大幅に厳格化させてきた。草の根レベルのボランティア活動なども打ち切っている。

それに、アメリカと中国の経済を切り離す「デカップリング」が実行されれば、途方もない経済的ダメージが発生する可能性が高い。

ポンペオは23日の演説で言及しなかったが、アメリカの一般消費者にとっては、デカップリングにより、安価だった中国製品の価格が大幅に上昇することになる。アメリカの企業も打撃を受ける。生産拠点の移転などにより莫大なコストが生じ、既に行った巨額の投資も無駄になるのだ。

【関連記事】米中衝突を誘発する「7つの火種」とは
【関連記事】限界超えた米中「新冷戦」、コロナ後の和解は考えられない

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米との鉱物協定「真に対等」、ウクライナ早期批准=ゼ

ワールド

インド外相「カシミール襲撃犯に裁きを」、米国務長官

ワールド

トランプ氏、ウォルツ大統領補佐官を国連大使に指名

ビジネス

米ISM製造業景気指数、4月48.7 関税の影響で
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に高く、女性では反対に既婚の方が高い
  • 2
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来が来るはずだったのに...」
  • 3
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が書かれていた?
  • 4
    ウクライナ戦争は終わらない──ロシアを動かす「100年…
  • 5
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 6
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新…
  • 7
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 8
    悲しみは時間薬だし、幸せは自分次第だから切り替え…
  • 9
    クルミで「大腸がんリスク」が大幅に下がる可能性...…
  • 10
    朝1杯の「バターコーヒー」が老化を遅らせる...細胞…
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 4
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 5
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 6
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に…
  • 7
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 8
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来…
  • 9
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 10
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 9
    クレオパトラの墓をついに発見? 発掘調査を率いた…
  • 10
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中