最新記事

検証:日本モデル

「新しい生活様式を自分で実践しますか」専門家会議に参加している公衆衛生学者に聞いた

ADAPTING TO THE NEW NORMAL

2020年6月4日(木)12時10分
西澤真理子(リスク管理・コミュニケーションコンサルタント)

「接触よりも飛沫」。今回の取材でこのルートを聞けたのは筆者にとって新鮮だった。和田教授によれば、夜の街でのクラスターは「大きな声を出す」現場で多く発生した。

例えば、店員が複数の客席に付き接客するにぎやかで華やかなお店、客が「カンパーイ」と声を出し合いひざを突き合わせたような状態で「ワイワイガヤガヤ」と盛り上がる状況で多いらしい。

スポーツジムでも運動量と呼吸量が多いプログラムでクラスターが発生しているが、不特定多数の人が混じり合い近くで声を出すような夜の街の発生件数は1桁ないし2桁の違いで多かったという。

であれば、「3密(密接、密集、密閉)」はメッセージとして不完全ではないか。リスクが高いのは「3密+(飛沫が多く飛ぶ)大きな声を出す」だ。言わば4つ目の「密」としての「密な会話」は、第2波を起こさないために鍵となるメッセージだろう。

「新しい生活様式」で提言されている「ルール」のようなものよりも、感染状況と経路は何か、最新情報を市民に提供することがより大切だ。リストは「やってはいけない」という禁止事項の列挙ではなく、自分の頭で考え判断するための材料なのであり、どうやったら実行できるのか、どこまでできるのかはそれぞれが状況に応じて考える必要がある。

その意図が伝わっていないからこそ、「自粛警察」のような行動が起きる。

「新しい生活様式」において重要なのは、自分の頭で考えること。であるならば、専門家からのメッセージとして伝えるべきは最新の事実(ファクト)であり、その情報を伝える際には根拠を透明化して欲しい。

人は「説得」ではなく、「納得」や「ふに落ちる」ことによって自分たちの行動を変える。リスクコミュニケーションでは相手に判断材料を提供しつつ、対話を通じて責務を共有し、社会のリスクを下げていく。この過程で互いの信頼関係を築き上げる。

情報と、情報を出す相手を信頼できるからこそ、人は納得して行動を変える。コロナの第2波を最小限に抑えるために、いまリスクコミュニケーションの強化が急務だ。

*なお、社団法人日本水商売協会は医師の監修の元で「接待飲食店における新型コロナウィルス対策ガイドライン」を作成し、マスクの着用、入店時体温測定、ソーシャルディスタンスを「必ずやるべきこと」と定め、啓発を行っている。ハイリスクな場所を名指しするのではなく、こうした具体的で明確なガイドラインを示す方がリスクを減らすのに役立つだろう。

※6月4日6:45に記事を公開しましたが、同12:10、より長い完全版に差し替えました(編集部)。

<2020年6月9日号「検証:日本モデル」特集より>

【関連記事】西浦×國井 対談「日本のコロナ対策は過剰だったのか」

20200609issue_cover150.jpg
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2020年6月9日号(6月2日発売)は「検証:日本モデル」特集。新型コロナで日本のやり方は正しかったのか? 感染症の専門家と考えるパンデミック対策。特別寄稿 西浦博・北大教授:「8割おじさん」の数理モデル

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

中国軍、台湾周辺で実弾射撃伴う演習開始 港湾など封

ビジネス

韓国クーパン、顧客情報大量流出で11.8億ドルの補

ワールド

尹前大統領の妻、金品見返りに国政介入 韓国特別検が

ビジネス

日経平均は反落、需給面での売りが重し 次第にもみ合
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 2
    マイナ保険証があれば「おくすり手帳は要らない」と考える人が知らない事実
  • 3
    【銘柄】子会社が起訴された東京エレクトロン...それでも株価が下がらない理由と、1月に強い秘密
  • 4
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 5
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 6
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」と…
  • 7
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 8
    「アニメである必要があった...」映画『この世界の片…
  • 9
    2026年、トランプは最大の政治的試練に直面する
  • 10
    アメリカで肥満は減ったのに、なぜ糖尿病は増えてい…
  • 1
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 2
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 3
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 4
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 5
    中国、インドをWTOに提訴...一体なぜ?
  • 6
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツ…
  • 7
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 8
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低…
  • 9
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足…
  • 10
    アベノミクス以降の日本経済は「異常」だった...10年…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 3
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 4
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 5
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「…
  • 6
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 7
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 8
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 9
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 10
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中