最新記事

アメリカ経済

いつになったら経済は元に戻るのか──景気回復への長くて遠い道のり

GOODBYE YELLOW BRICK ROAD?

2020年5月21日(木)17時00分
サム・ヒル(本誌米国版コラムニスト)

また、回復が見込めない部門もありそうだ。「店舗販売の小売業は、経済が拡大していた時期から既に下り坂だった。事態が収束した後に、全ての人が再雇用されることはないだろう」と、ニッケルスバーグは言う。

消費者需要の減退と事業活動の中断は、多くの中小企業にとって終焉の鐘を鳴らすかもしれないと、バンアークはみる。「休業が1週間延びるたびに、倒産が現実に近づく」

全米レストラン協会によると、休業中の飲食店の3%は再開しそうにない。多くの人が給料は少なくても安定しているフルタイムの仕事を求めるようになるため、請負契約やパートタイムによって成り立っている「ギグ・エコノミー」は再編成される可能性がある。

誰もが「普通」に戻りたい

私たちの生活への影響は長引きそうだ。金融不況の後のように、所得格差はさらに広がるだろう。調査機関ピュー・リサーチセンターによると、所得の最下層は2007年の1万8500ドルから2016年は1万800ドルに、中間所得層の世帯の純資産は16万3300ドルから11万100ドルに減っている。経済状況が回復して資産を築いたのは高所得者層だけだ。

経済全体は、さらに不安定になるだろう。10年も続くような好景気は、今後は起きそうにない。現代の高度に専門化された経済は、非常に効率的だが、驚くほどもろい。人工呼吸器で露呈したように、余剰生産力や在庫も多くない。また、今回の危機でレジリエンス(回復力)が注目されているが、四半期単位の数字に追われる企業にとっては、長期的な視点を持てと言われても簡単ではない。

ここまでの約10年の素晴らしい回復は、減税や通貨政策、財政刺激策など、あらゆる経済ツールを駆使してきた結果でもある。FRBは3月中旬に緊急利下げを行い、政策金利はほぼゼロ(0〜0.25%)になった。財政赤字は記録的な数字が続いている。いずれ方策も尽きるだろう。

確かに、誰もが今すぐ「普通」に戻りたいと願っている(もっとも、コロナ前の126カ月間の持続的な成長と低失業率は、本当の意味の「普通」ではなかったのだが)。しかし、それは難しそうだ。

「科学者が治療法やワクチンをどのくらい早く確立できるかも、消費者や企業の行動がどのように変わるのかも、まだ分からない」と、ブルッキングス研究所のウェッセルは言う。「急速なV字回復はありそうにない。回復までに四半期かかるのか、1年か、それとも10年か。コロナ以前の水準に戻れるのだろうか」。コロナ後はさまざまなことが変わるだろう。

ハセットも、ナバロに制止される前にそう言いたかったに違いない。

<本誌2020年5月26日号掲載>

【参考記事】ポスト・コロナの世界経済はこうなる──著名エコノミスト9人が語る
【参考記事】コロナ危機が中小企業にとってはるかに致命的な4つの理由

20200526issue_cover150.jpg
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2020年5月26日号(5月19日発売)は「コロナ特効薬を探せ」特集。世界で30万人の命を奪った新型コロナウイルス。この闘いを制する治療薬とワクチン開発の最前線をルポ。 PLUS レムデジビル、アビガン、カレトラ......コロナに効く既存薬は?

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

インドネシア、340億ドルの対米投資・輸入合意へ 

ワールド

ベトナム、対米貿易協定「企業に希望と期待」 正式条

ビジネス

アングル:国内製造に挑む米企業、価格の壁で早くも挫

ワールド

英サービスPMI、6月改定は52.8 昨年8月以来
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプvsイラン
特集:トランプvsイラン
2025年7月 8日号(7/ 1発売)

「平和主義者」のはずの大統領がなぜ? 核施設への電撃攻撃で中東と世界はこう変わる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...父親も飛び込み大惨事に、一体何が起きたのか?
  • 2
    「やらかした顔」がすべてを物語る...反省中のワンコに1400万人が注目
  • 3
    ワニに襲われた直後の「現場映像」に緊張走る...捜索隊が発見した「衝撃の痕跡」
  • 4
    ワニに襲われた男性の「最期の姿」...捜索隊が捉えた…
  • 5
    米軍が「米本土への前例なき脅威」と呼ぶ中国「ロケ…
  • 6
    吉野家がぶちあげた「ラーメンで世界一」は茨の道だ…
  • 7
    【クイズ】「宗教を捨てる人」が最も多い宗教はどれ?
  • 8
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 9
    「22歳のド素人」がテロ対策トップに...アメリカが「…
  • 10
    熱中症対策の決定打が、どうして日本では普及しない…
  • 1
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で大爆発「沈みゆく姿」を捉えた映像が話題に
  • 2
    ワニに襲われた男性の「最期の姿」...捜索隊が捉えた発見の瞬間とは
  • 3
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門家が語る戦略爆撃機の「内側」と「実力」
  • 4
    突然ワニに襲われ、水中へ...男性が突いた「ワニの急…
  • 5
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 6
    夜道を「ニワトリが歩いている?」近付いて撮影して…
  • 7
    仕事ができる人の話の聞き方。3位は「メモをとる」。…
  • 8
    サブリナ・カーペンター、扇情的な衣装で「男性に奉…
  • 9
    定年後に「やらなくていいこと」5選──お金・人間関係…
  • 10
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝…
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 3
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 4
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊…
  • 5
    妊娠8カ月の女性を襲ったワニ...妊婦が消えた川辺の…
  • 6
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 7
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事…
  • 8
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 9
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 10
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中