最新記事

感染対策

ロックダウンは必要なかった? 「外出禁止は感染抑制と相関がない」と研究結果

2020年5月8日(金)17時50分
松岡由希子

外出禁止は感染抑制に顕著な効果が認められなかった REUTERS/Gonzalo Fuentes

<欧州30カ国を対象に、ソーシャル・ディスタンシングに基づく施策が新型コロナウイルス感染症の感染者数や死亡者数の減少にもたらす効果について分析した......>

新型コロナウイルス感染症の感染拡大を抑制するための公衆衛生戦略として「ソーシャル・ディスタンシング(社会的距離戦略)」が世界各国で採用され、欧米諸国の多くは、2020年3月以降、国民や市民、企業の活動を強制的に制限する「ロックダウン(都市封鎖)」の措置を講じてきた。

それでは実際、ロックダウンなど、ソーシャル・ディスタンシングに基づく施策は、新型コロナウイルス感染症の感染拡大の抑制にどのくらい寄与しているのだろうか。

外出禁止は感染抑制に顕著な効果が認められなかった

英イースト・アングリア大学(UEA)の研究チームは、英国、ドイツ、フランスなど、欧州30カ国を対象に、ソーシャル・ディスタンシングに基づく施策が新型コロナウイルス感染症の感染者数や死亡者数の減少にもたらす効果について分析し、2020年5月6日、未査読の研究論文を「メドアーカイブ」で公開した。

これによると、休校や大規模集会の禁止、一部のサービス業の営業停止は、感染拡大の抑制に効果があった一方、外出禁止や、生活必需品を扱う店舗以外の営業停止は、感染者数や死亡者数の抑制に顕著な効果が認められなかった。また、現時点において、公共の場所でのマスク着用の義務化にも特段の効果は確認されていない。

研究チームは、欧州連合(EU)の専門機関「欧州疫病予防管理センター(ECDC)」が毎日発表している各国の新型コロナウイルス感染症の感染者数および死亡者数と、休校、大規模集会の禁止、店舗の営業停止、外出禁止、マスクの着用といった各施策の各国での実施開始日をもとに、統計モデル「一般化加法混合モデル(GAMM)」で分析した。

感染拡大の抑制と最も高い相関が認められたのは休校だった

感染拡大の抑制と最も高い相関が認められたのは休校だ。ただし、小学校、中学校、高校、大学のうち、いずれの教育機関での休校が感染抑制に最も寄与したのかは明らかになっていない。

大規模集会の禁止は、休校に次いで、感染拡大の抑制に高い効果が認められた。研究論文の筆頭著者であるイースト・アングリア大学のポール・ハンター教授は「これまでにも、音楽フェスティバルと関連した呼吸器感染症の発生が確認されている」と指摘。2009年には、欧州の6カ所の大規模音楽フェスティバルのうち3カ所で新型インフルエンザが発生している。

人々が集まるレストランやバー、レジャー施設、イベント会場の閉鎖も感染拡大の抑制に寄与した。その一方で、ハンター教授は「これら以外の業種における営業停止は、感染拡大の抑制にほとんど影響がなかったとみられる」と考察している。

また、外出禁止は、新型コロナウイルス感染症の発生率の減少との相関がなく、むしろ、外出禁止の日数が増えるほど、感染者数は増加した。

相関のメカニズムについては解明されていない

一連の研究成果では、各施策と感染拡大の抑制との相関のメカニズムについては解明されていない。また、各国で複数の施策が短期間に次々と導入されたため、現時点では、施策ごとに感染拡大の抑制との因果関係を証明するのは困難だ。

ハンター教授は「制限の緩和が欧州で徐々にすすめられるなか、新型コロナウイルス感染症の流行の動向を注視していくことが不可欠だ。そうすれば、施策ごとの効果の有無がより明らかとなるだろう」と指摘している。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

インドネシアCPI、11月は前年比+2.86%に加

ワールド

米が新たな北朝鮮制裁、偵察衛星打ち上げで 日豪韓と

ワールド

イスラエルとハマス、戦闘休止さらに1日延長で合意=

ビジネス

午前の日経平均は小反落、方向感欠く展開 半導体株安
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:まだ間に合う 新NISA投資入門
特集:まだ間に合う 新NISA投資入門
2023年12月 5日号(11/28発売)

インフレが迫り、貯蓄だけでもう資産は守れない。「投資新時代」のサバイバル術

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    ミャンマー分裂?内戦拡大で中国が軍事介入の構え

  • 2

    米空軍の最新鋭ステルス爆撃機「B-21レイダー」は中国の次世代超音速ミサイルにかなわない?

  • 3

    最新の「四角い潜水艦」で中国がインド太平洋の覇者になる?

  • 4

    ロシアはウクライナ侵攻で旅客機76機を失った──「不…

  • 5

    男たちが立ち上がる『ゴジラ-1.0』のご都合主義

  • 6

    「大谷翔平の犬」コーイケルホンディエに隠された深…

  • 7

    働けるのに「あえて働かない」人たち...空前の「人手…

  • 8

    <動画>ロシア攻撃ヘリKa-52が自軍装甲車MT-LBを破…

  • 9

    1日平均1万3000人? 中国北部で「子供の肺炎」急増の…

  • 10

    中国の原子力潜水艦が台湾海峡で「重大事故」? 乗…

  • 1

    <動画>ロシア攻撃ヘリKa-52が自軍装甲車MT-LBを破壊する瞬間

  • 2

    ロシアはウクライナ侵攻で旅客機76機を失った──「不意打ちだった」露運輸相

  • 3

    「超兵器」ウクライナ自爆ドローンを相手に、「シャベル1本」で立ち向かうロシア兵の映像が注目集める

  • 4

    「大谷翔平の犬」コーイケルホンディエに隠された深…

  • 5

    下半身が「丸見え」...これで合ってるの? セレブ花…

  • 6

    ミャンマー分裂?内戦拡大で中国が軍事介入の構え

  • 7

    米空軍の最新鋭ステルス爆撃機「B-21レイダー」は中…

  • 8

    最新の「四角い潜水艦」で中国がインド太平洋の覇者…

  • 9

    ヨーロッパに「鉄のカーテン」が復活──ロシアの新種…

  • 10

    またやられてる!ロシアの見かけ倒し主力戦車T-90Mの…

  • 1

    <動画>裸の男が何人も...戦闘拒否して脱がされ、「穴」に放り込まれたロシア兵たち

  • 2

    <動画>ウクライナ軍がHIMARSでロシアの多連装ロケットシステムを爆砕する瞬間

  • 3

    「アルツハイマー型認知症は腸内細菌を通じて伝染する」とラット実験で実証される

  • 4

    戦闘動画がハリウッドを超えた?早朝のアウディーイ…

  • 5

    リフォーム中のTikToker、壁紙を剥がしたら「隠し扉…

  • 6

    <動画>ロシア攻撃ヘリKa-52が自軍装甲車MT-LBを破…

  • 7

    ここまで効果的...ロシアが誇る黒海艦隊の揚陸艦を撃…

  • 8

    ロシアはウクライナ侵攻で旅客機76機を失った──「不…

  • 9

    <動画>ウクライナ軍ドローンが、「奪還」したドニ…

  • 10

    また撃破!ウクライナにとってロシア黒海艦隊が最重…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中