最新記事

コロナ対策

ノルウェー、携帯電話基地局データを感染拡大予測や医療体制拡充に活用

2020年4月16日(木)19時00分
松岡由希子

ノルウェーのエルナ・ソルベルグ首相 NTB Scanpix/Lise Aserud via REUTERS

<ノルウェーでは、携帯電話基地局のデータを活用し、新型コロナウイルスの流行の傾向を予測し、感染症病床や集中治療室(ICU)の増床、人工呼吸器の確保など、医療体制の拡充に役立てている......>

人口約530万人の北欧ノルウェーでは、携帯電話基地局のデータを活用し、医療体制の拡充や感染拡大防止策に関する効果検証に役立てている。

ノルウェーで携帯電話などの無線通信サービスを提供する国営企業テレノールは、ノルウェー国内8100カ所以上に携帯電話基地局を設置。ノルウェーの通信データの約80%がテレノールの携帯電話基地局を通過している。

都市封鎖の解除に向けた意思決定でも貴重なツールに

テレノールでは、2020年1月以降、ノルウェーの365自治体を対象にユーザーの移動データをノルウェー公衆衛生研究所(NIPH)に提供してきた。テレノールの研究員ケンス・エンゴ=モンセン博士は、その目的について「国内で新型コロナウイルス感染症がどのように広がっているのかを理解するうえで、国民の移動パターンを知ることは不可欠だ」と述べている。

ノルウェー政府は、新型コロナウイルス感染症の感染拡大を抑制するべく、3月12日から全土で「都市封鎖(ロックダウン)」を実施している。この措置により国民の移動が減ったことはテレノールの移動データからも明らかだ。都市封鎖前の3月10日時点では人の移動が増えたことを示す赤色のエリアが点在した一方、都市封鎖中の3月15日には人の移動が減ったことを示す青色のエリアが全土に広がっている。

Norway-10-March-15-March.jpgtelenor


ノルウェー公衆衛生研究所では、新型コロナウイルスの拡散シナリオの予測にテレノールの移動データを活用。各自治体の人口構造、各自治体での感染の伝播状況、自治体間の移動状況をふまえた新型コロナウイルスの伝播モデルを独自に開発した。これによって、現在および将来の流行の傾向を自治体レベルで予測でき、感染症病床や集中治療室(ICU)の増床、人工呼吸器の確保など、医療体制の拡充に役立てることができる。また、学校再開や店舗の営業再開、テレワークの緩和など、都市封鎖の解除に向けた意思決定においても、貴重なツールとなっている。

感染者と接触したユーザーに通知されるスマホアプリも開発

ノルウェーでの新型コロナウイルス感染症の感染者数は4月15日時点で6566名だ。流行のピークは脱したとみられ、4月6日時点で基本再生産数(R0:感染者1名から二次感染させる平均的な人数)は0.7と推定されている。

エルナ・ソルベング首相は、感染拡大の状況を注視しながら、4月20日以降、幼稚園や小学校を再開していく方針を明らかにしている。

ノルウェー公衆衛生研究所は、テレノールの移動データを活用した予測モデルに加え、新型コロナウイルスへの感染者やその接触者の早期発見・早期隔離に役立てるべく、感染が確認されたユーザーと近距離で接触したユーザーに通知されるスマートフォンアプリ「スミッテストップ」を開発している。近々、ノルウェー国内で本格的に導入する計画だ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ナワリヌイ氏殺害、プーチン氏は命じず 米当局分析=

ビジネス

アングル:最高値のビットコイン、環境負荷論争も白熱

ビジネス

決算に厳しい目、FOMCは無風か=今週の米株式市場

ビジネス

中国工業部門企業利益、1─3月は4.3%増に鈍化 
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 3

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われた、史上初の「ドッグファイト」動画を米軍が公開

  • 4

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 5

    目の前の子の「お尻」に...! 真剣なバレエの練習中…

  • 6

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 7

    美女モデルの人魚姫風「貝殻ドレス」、お腹の部分に…

  • 8

    19世紀イタリア、全世界を巻き込んだ論争『エドガル…

  • 9

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を…

  • 10

    ロシア軍「Mi8ヘリコプター」にウクライナ軍HIMARSが…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 6

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 7

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 10

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の瞬間映像をウクライナ軍が公開...ドネツク州で激戦続く

  • 3

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 4

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 5

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 6

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 10

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中