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新型コロナウイルス

緊急事態宣言、東大留学生たちの決断「それでも僕は東京に残る」

2020年4月8日(水)18時00分
スペンサー・コーヘン(東京大学大学院修士課程) 

思えば、2011年に福島県で原発事故が起きた際には、多くの外国人が日本を去った。当時は、米政府が日本にいる自国民に対し、避難範囲を日本政府発表よりも広く定めて注意を喚起した。だが今は当時と違い、世界全体が同じように見えざる敵の脅威にさらされている。

日本に住む学生である僕たちは、家族から遠く離れ、安倍政権や日本の医療体制を頼りに、ここでウイルスと対峙することになる。

とはいえ、日本にいたからこそニューヨークの家族や友人たちより遥かに早くこのウイルスの危険性を知ることができたとも言える。日本でゆるやかにウイルスが拡散されはじめ、家族にマスクを買って備えるように訴えたのは1月後半のこと。当時、僕の忠告は聞き入れてもらえなかった。

だが今や、僕の家族の震える声には日本に迫りつつある大惨事への恐怖がにじみ出ている。「東京の状況はどんどん悪くなっている」、というのは最近の母の口癖だ。家族はみな、今後の東京のシナリオを見据え、僕に今すぐ帰国するよう懇願する。

それでも僕は、日本に残ることを選択した。人々が社会的距離をとるようになり、マスクが広く使われ、手洗いが徹底されるなど一人ひとりの行動が感染拡大を和らげることに希望を持っている。だがそれ以上に、自分が怖いからといって、両親を感染のリスクにさらしてまで帰国したくはなかった。

ほかのアメリカ人の友人たちも同じように、米大使館の注意喚起にかかわらず、今も自宅で物を書いたり仕事をしながら過ごしている。僕の留学生の仲間たちはみな、自分たちの母国で起きているように大勢の死者が出る事態を日本で目にすることがないようにと祈っている。

安倍政権が緊急事態宣言を出した今、国際社会は日本社会が大きく変化するのか否かを注視している。これまでは、日本の「平常さ」は国外にとっては困惑の種でしかなく、批判されてもきた。だが僕は、日本社会にようやく生まれた緊迫感が、早急かつ徹底した対応に火をつけることを願っている。

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