最新記事

感染爆発

迫り来る日本の医療崩壊 新型コロナウイルス院内感染で人材ひっ迫

2020年4月6日(月)15時15分

東京下町地域の中核病院である永寿総合病院は、院内で新型コロナウイルスの集団感染が発生し、外来診療を休止した。4月6日撮影(2020年 ロイター/Issei Kato)

「当面の間、外来診療を休診とさせていただきます」。正面玄関のガラス扉に貼られた紙を見て、診察に来た高齢の男性は呆然としていた。

東京都台東区のJR上野駅からほど近い永寿総合病院は、下町で暮らし働く人が診療に訪れる地域の中核病院だ。しかし、新型コロナウイルスの感染発生が3月23日に伝えられて以降、院内では4月3日までに140人が感染。うち40人以上が医師や看護師、事務員などの職員で、病院は外来の受け入れを休止した。

「かかりつけ医師の診察を求めている患者がいるのに、病院が閉鎖され、他の病院を紹介してもらうこともできない、これは医療崩壊だ」――日本医師会の釜萢敏・常任理事はロイターとのインタビューでそう語った。

病院の前に立ち尽くしていた高齢男性は、警備員からその場を離れるよう促され、自身の「かかりつけ医」を後にした。

第一波の制御に失敗

日本ではまだ、米国や欧州のような爆発的な感染の広がりは起きていない。医療崩壊を危惧する医師会や、小池百合子都知事などから声が挙がっているにも関わらず、政府は「ぎりぎりの状態」だとの認識をずっと繰り返し、都道府県知事に強い権限を与える緊急事態宣言を出してこなかった。

それでも感染者は毎日着実に増えており、最も深刻な東京都では5日現在で累計1033人、入院中は951人、うち重症者は24人に達した。都は1000床を確保したとする一方、軽症者については借り上げたホテルに移すことを決めた。

台東区によると、院内クラスター(感染集団)が発生した永寿総合病院では、4月初旬の段階で感染者と非感染者が混在する形で入院していた。ここから慶應義塾大学病院に転院した患者から、新たな感染も発生している。

厚生労働省クラスター対策班で国内の感染状況の分析に当たる西浦博・北海道大教授(理論疫学)は、中国から直接持ち込まれたウイルスによる感染拡大を「第一波」と表現。「永寿総合病院は、感染第一波をコントロールできていなかった典型的な例だ」と、1日の会見で語った。

その上で西浦教授は、今は欧米などから帰国する日本人を始め、中国以外の地域からの入国者から感染が広がる「第二波」が懸念されると指摘。「感染拡大に歯止めがかからなければ、より強力な対策を考えねばならない」と述べた。

もし日本で欧州並みの大流行が発生し、さらに「都市封鎖」(ロックダウン)に類する措置などが講じられなかった場合、どのような事態が起きるのか。政府の感染症対策専門家会議は、永寿総合病院で集団感染が発生する3週間前の3月上旬に予測を出している。

比較的感染が抑制されているドイツの状況を前提とした場合でも、流行発生から50日目には1日100人に5人以上の割合で感染、最終的には8割近い人が感染するとした。流行62日目には100人に1人が重篤化し、現有の人工呼吸器の数を超えてしまうことが想定されるとしている。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米5月PCE価格、前年比2.3%上昇 個人消費支出

ビジネス

中国人民銀、経済状況に応じて効果的に政策対応 金融

ビジネス

利下げ今年2回予想、一時停止の可能性も=ミネアポリ

ビジネス

ドイツ政府委、最低時給の段階的引き上げ勧告 27年
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が尊敬する日本のCEO
特集:世界が尊敬する日本のCEO
2025年7月 1日号(6/24発売)

不屈のIT投資家、観光ニッポンの牽引役、アパレルの覇者......その哲学と発想と行動力で輝く日本の経営者たち

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門家が語る戦略爆撃機の「内側」と「実力」
  • 2
    サブリナ・カーペンター、扇情的な衣装で「男性に奉仕する」ポーズ...アルバム写真に「女性蔑視」批判
  • 3
    韓国が「養子輸出大国だった」という不都合すぎる事実...ただの迷子ですら勝手に海外の養子に
  • 4
    定年後に「やらなくていいこと」5選──お金・人間関係…
  • 5
    【クイズ】北大で国内初確認か...世界で最も危険な植…
  • 6
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝…
  • 7
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 8
    伊藤博文を暗殺した安重根が主人公の『ハルビン』は…
  • 9
    富裕層が「流出する国」、中国を抜いた1位は...「金…
  • 10
    夜道を「ニワトリが歩いている?」近付いて撮影して…
  • 1
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 2
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 3
    妊娠8カ月の女性を襲ったワニ...妊婦が消えた川辺の「緊迫映像」
  • 4
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 5
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事…
  • 6
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 7
    定年後に「やらなくていいこと」5選──お金・人間関係…
  • 8
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
  • 9
    飛行機内で「最悪の行為」をしている女性客...「あり…
  • 10
    サブリナ・カーペンター、扇情的な衣装で「男性に奉…
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 3
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊の瞬間を捉えた「恐怖の映像」に広がる波紋
  • 4
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測…
  • 5
    妊娠8カ月の女性を襲ったワニ...妊婦が消えた川辺の…
  • 6
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 7
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「Mi…
  • 8
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事…
  • 9
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 10
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中