最新記事

中国経済

新型コロナが収束に向かう中国──前代未聞の経済収縮からの脱却と世界戦略の始動

2020年4月2日(木)11時10分
三尾 幸吉郎(ニッセイ基礎研究所)

そして、武漢で封じ込めに失敗した中国政府は、"医療崩壊"が全国に波及しないよう湖北省(省都:武漢市)を"都市封鎖"するなどの強硬策を講じたため、新たに新型コロナ感染が確認された症例が徐々に少なくなるとともに、時間を経るにしたがって治療を終えて退院する人も増えたため、現存の感染者数は2月17日をピークに減少し始めている(図表-13)。また、3月中旬以降は、海外からの帰国者などの「輸入症例」を除くと、国内で市中感染したと見られる確認症例はほとんど無くなったため、"医療崩壊"が全国に広がるのはどうにか回避できそうである。そして、"医療崩壊"してしまった武漢でも、3月10日には軽症患者を収容するために突貫工事で建設された病棟(16ヵ所)をすべて閉鎖し、運行を停止していた地下鉄などの公共交通機関も設備の消毒を徹底した上で順次再開されるメドが立ち、4月8日には武漢市の"都市封鎖"を解除する予定となっている。

以上のように、新型コロナウイルスの感染が収束に向かった一方で、経済活動に関しては前代未聞の急収縮になったことに鑑みると、中国政府が採用した新型コロナ対策は、防疫を徹底するために、国民や国内企業が生き残る上で必要最低限なレベルにまで経済活動(生産、消費、投資、金融)を抑えるものだったと言える。そして、3月には新型コロナ対策で遅れていた農民工など(約3億人)の職場復帰が進み、3月中旬には工業企業(一定規模以上、除く湖北省)の平均操業再開率は95%を超え、中小企業でも60%前後に達するなど、中国経済は持ち直し始めている。

但し、欧米諸国では新型コロナウイルスの感染者が急増しており、もし中国が欧米諸国からの"逆流"を水際で阻止することに失敗すれば、再び中国国内で市中感染が広がる"第2波"ともなりかねない。海外からの帰国者など「輸入症例」は増加傾向にあり(図表-14)、「経過観察中の濃厚接触者」も3月19日の8,989名をボトムに再び増え始めており、鬼気迫る状況にある。

Nissei200401_7.jpg

今後の見通し

以上のような状況を踏まえると、中国国家統計局が4月17日に公表する1-3月期の成長率が大幅なマイナス成長になるのは間違いないだろう。国内総生産(GDP)の実質成長率と連動性の高い工業生産とサービス業生産から推定すると1-2月期の成長率は前年比▲13%程度で、その後の3月に前年並みまで景気が持ち直したとしても、1-3月期の成長率は前年比10%近いマイナス成長(▲7.0%~▲10%)となりそうだ(図表-15)。欧米先進国の慣例にしたがって前期比年率で示せば▲50%という前代未聞の経済収縮となる。

Nissei200401_8.jpg

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米ISM製造業景気指数、4月48.7 関税の影響で

ワールド

トランプ氏、ウォルツ大統領補佐官解任へ=関係筋

ビジネス

物言う株主サード・ポイント、USスチール株保有 日

ビジネス

マクドナルド、世界の四半期既存店売上高が予想外の減
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に高く、女性では反対に既婚の方が高い
  • 2
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来が来るはずだったのに...」
  • 3
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が書かれていた?
  • 4
    ウクライナ戦争は終わらない──ロシアを動かす「100年…
  • 5
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 6
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新…
  • 7
    悲しみは時間薬だし、幸せは自分次第だから切り替え…
  • 8
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 9
    クルミで「大腸がんリスク」が大幅に下がる可能性...…
  • 10
    朝1杯の「バターコーヒー」が老化を遅らせる...細胞…
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 4
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 5
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 6
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に…
  • 7
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 8
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来…
  • 9
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 10
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 9
    クレオパトラの墓をついに発見? 発掘調査を率いた…
  • 10
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中