最新記事

中国

中国はなぜコロナ大拡散から抜け出せたのか?

2020年3月18日(水)18時10分
遠藤誉(中国問題グローバル研究所所長)

中国を二度もウイルス禍から救った鍾南山 Thomas Suen-REUTERS

中国がコロナから抜け出せたのは一党支配体制だからだという側面は否定しないが、しかしそれより大きいのは鍾南山という「体制に屈しない気骨の免疫学者」がいたからだ。ウイルスの前に一党支配体制はむしろ脆弱だ。

権力に屈しない鍾南山の気骨

中国における免疫学や呼吸器学などの最高権威である鍾南山は、1936年10月20日に江蘇省の南京市で生まれた。1960年に北京医学院(現在の北京大学医学部)を卒業し、文化大革命時には下放され、文革が終わった1979年にイギリスのエディンバラ大学に。1992年から広州医学院院長(現在の広州医科大学学長に相当)などを務めた。

父親は北京協和医学院とニューヨーク州立大学を卒業し、広東省の中山医学院の教授になり、母親も協和医科大学を卒業後、広東省で華南腫瘍医院を創設し副院長を務めたが、文化大革命で知識人として糾弾され自殺している。

このことが大きな原因の一つになっているのだろう。鍾南山は「反体制」とまでは言わないにしろ、体制におもねることがない。2002年に発生し、2003年に大流行したSARS(サーズ。重症性呼吸器症候群)の時には、感染の中心地となった広東省で広州市呼吸器疾病研究所の所長として異常を察知し、SARSの脅威を隠蔽しようとする江沢民政権に対して異議を唱え、事態の深刻さを訴えた。結果、SARSの(あれ以上の)拡大を抑えることに成功している。

以来、民族の英雄として人民の尊敬を集めている。

鍾南山が提案した緊急コンテナ病棟が中国を救う

今般の新型コロナウイルス肺炎に関しても、1月24日の<新型コロナウイルス肺炎、習近平の指示はなぜ遅れたのか?>に書いたように、1月19日に鍾南山は国家衛生健康委員会ハイレベル専門家チームの代表として武漢の病院を視察した。武漢政府を信じていなかったので病院に行ったというのがキーポイントである。そこで「人から人への感染」があることと、「これはSARS以上の危機をもたらすかもしれない」と一瞬で見抜き、李克強(国務院総理)に知らせたことから、習近平(国家主席)の知るところとなり、1月20日に習近平に「重要指示」を出させるに至った経緯がある。

そのころ習近平はのんびりとミャンマー訪問や雲南の春節巡りなどをしていたのだから、話にならない。鍾南山の緊急要請がなかったら、コロナ被害は現在の何倍に拡大していたか、収拾がつかない状況になっていただろう。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

金総書記、プーチン氏に新年メッセージ 朝ロ同盟を称

ワールド

タイとカンボジアが停戦で合意、72時間 紛争再燃に

ワールド

アングル:求人詐欺で戦場へ、ロシアの戦争に駆り出さ

ワールド

ロシアがキーウを大規模攻撃=ウクライナ当局
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 2
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指すのは、真田広之とは「別の道」【独占インタビュー】
  • 3
    【世界を変える「透視」技術】数学の天才が開発...癌や電池の検査、石油探索、セキュリティゲートなど応用範囲は広大
  • 4
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 5
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」と…
  • 6
    中国、米艦攻撃ミサイル能力を強化 米本土と日本が…
  • 7
    アベノミクス以降の日本経済は「異常」だった...10年…
  • 8
    中国、インドをWTOに提訴...一体なぜ?
  • 9
    【クイズ】世界で最も1人当たりの「ワイン消費量」が…
  • 10
    「衣装がしょぼすぎ...」ノーラン監督・最新作の予告…
  • 1
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 2
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 3
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指すのは、真田広之とは「別の道」【独占インタビュー】
  • 4
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツ…
  • 5
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「…
  • 6
    中国、インドをWTOに提訴...一体なぜ?
  • 7
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低…
  • 8
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 9
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足…
  • 10
    アベノミクス以降の日本経済は「異常」だった...10年…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 3
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 4
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 5
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 6
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 7
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 8
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 9
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 10
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中