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中東

イラクとシリアが反対表明、地域を不安定化させるトランプの中東和平案

Iraq, Syria Oppose Trump's Mideast Peace Plan, Creating Further Tensions

2020年1月30日(木)15時40分
トム・オコナー

イランはイラクとシリアを同盟勢力と見なし、イスラム教シーア派の民兵組織を動員するなどして、両国政府の対ISIS作戦を支援してきた。これらの民兵組織は「抵抗の枢軸」の一員を名乗り、中東を不安定化させている元凶だとしてアメリカ、イスラエルとサウジアラビアを敵視している。

イランはパレスチナの擁護者を自認し、ガザ地区を実効支配するハマスなどのスンニ派勢力を積極的に支援してきた。同国のジャバド・ザリフ外相はトランプの和平案について、「中東地域にとっても世界にとっても悪夢」であり「地獄につながるハイウェイ」だと一蹴した。

イスラエルはここ数年、イラクとシリアで、イランが支援する民兵組織の拠点に対する攻撃を繰り返してきた。アメリカは長年、これらの民兵組織との関わりを避けてきたが、2019年12月、イラク軍の基地がロケット弾による攻撃を受けて米国防総省の請負業者1人が死亡したことを受けて、イラクとシリアにある親イラン派武装組織「カタイブ・ヒズボラ」の拠点を攻撃した。

これをきっかけに急激に緊張が高まり、アメリカによる親イラン派武装組織への攻撃に抗議する群衆がバグダッドにある米大使館を襲撃。アメリカはバグダッド近郊の国際空港で、イラン革命防衛隊の精鋭部隊「クッズ部隊」のカサム・スレイマニ司令官やイラクのシーア派反政府勢力「大衆動員機構(ハシェド)」のアブ・マフディ・ムハンディス副司令官らを殺害した。これを受けてイラクの議会は米軍の撤退を求める決議案を可決。イランはスレイマニ殺害の報復として、イラク国内にある米軍の複数の拠点をミサイルで攻撃した。

中東諸国の間でも賛否が分かれる

アメリカとイランの関係は、トランプ政権がイラン核合意からの離脱を決定して対イラン制裁を再開して以降、急速に悪化している。これと時期を同じくしてアメリカは中東に配備する人員や装備を増やし、中東各地では情勢が不安定化した。イランはアメリカとの対立が戦争に発展すれば、米軍基地、米軍の駐留を受け入れているアラブ諸国やイスラエルを攻撃する可能性があると警告している。

こうした背景もあって、中東諸国は、トランプの中東和平案をめぐって意見が割れている。これまでのところ、サウジアラビアとアラブ首長国連邦が和平案への支持を表明。両国とバーレーン、オマーンの大使は、28日にホワイトハウスで和平案が発表された場に出席していたほどだ。アラブの国としてパレスチナの味方のはずだが、アメリカの軍事支援が必要なので寝返ったと思われる。

エジプトもトランプ政権の努力を評価する姿勢を表明。イスラエルとパレスチナの双方に対して、和平案の内容を慎重に検討するよう呼びかけ、「国際法に従った独立国家の樹立を通して、パレスチナの人々に正当な権利を与える」解決を促した。ヨルダンは、和平のためのあらゆる試みを支持すると表明したが、一方で「国際法に違反するイスラエルの一方的な措置や、中東地域をさらなる緊張に追いやるような挑発的な行動」には反対だと警告した。アラブ諸国の中ではエジプトとヨルダンだけが、イスラエルと平和条約を締結している。

NATO加盟国でイスラエルと外交関係を持つトルコは、トランプの中東和平案を即座に批判。国連がイスラエルによる違法占拠と見なしている地域について、イスラエルの支配を認める同和平案は「完全な失敗」だとこき下ろした。

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