最新記事

中台関係

新型コロナウイルスでも台湾をいじめる中国

Taiwan Still Shut Out of WHO

2020年1月27日(月)19時50分
ニック・アスピンウォール

台北で開かれたフォックスコンの納会も武漢から帰省の従業員は欠席 YIMOU LEE-REUTERS

<中国の圧力でWHO会合出席もかなわず、感染対策の国際的な議論に加われない台湾。非常事態に蔡英文が情報共有を訴えるが>

台湾でもコロナウイルスによる新型肺炎の感染が確認され、当局は直ちに、発生源とされる武漢住民の台湾入りを全て禁じた。WHO(世界保健機関)から排除されているために最新の情報が入らず、不安が高まっているからだ。

中国政府は1月23日に武漢および隣接2都市を封鎖し、住民が市外に出るのを実質的に禁じた。台湾と武漢を結ぶ直行便も、既に全て運航停止している。

台湾の公衆衛生当局は1月21日、武漢で働いていて20日に台湾に戻った55歳の女性の感染が確認されたと発表した。ほかにも感染の疑いのある人が多数いるという。

台湾の蔡英文(ツァイ・インウェン)総統は22日に中国政府に対し、このウイルスの拡散状況に関する情報の提供を求める一方、国際空港での防疫体制を最大限に強化していると述べた。

しかし現状では、中国本土と台湾の間に公衆衛生上の情報を共有する正式な仕組みはない。独立志向とされる民進党の蔡が2016年に総統に選出されて以来、中国側は台湾と政府レベルの対話を全て打ち切っている。

蔡はWHOに、この問題に関する緊急の専門家会議に台湾が加わるのを認めるよう要請した。中国政府の圧力により、今の台湾はWHOから排除されている。過去には総会にオブザーバーとして参加していたが、蔡政権の誕生以降はそれも許されていない。

中華圏では1月24日に春節(旧正月)の連休が始まり、住民の移動が活発になっている。ウイルス感染の可能性がある武漢市民が既に市外に出ている可能性があり、国際社会もこれを懸念している。

それでも「一つの中国」

中国本土で働く台湾住民は100万人超とみられ、その多くは春節の連休中に帰省するだろう。その中にはiPhone製造などを手掛ける台湾資本のフォックスコン(鴻海科技集団)の従業員もいる。ただし同社は、今のところ武漢工場で感染の疑われる者はいないとしている。

一方で台湾当局は対策本部を立ち上げ、緊急対応チームをつくり、マスメディアやソーシャルメディアを通じた情報発信を強化している。

しかし台湾はこんな事態になっても、中国政府の反対でWHOの会合に出席できずにいる。かつてSARS(重症急性呼吸器症候群)が流行したときも、2人の死者が出るまでWHOの専門家は台湾に来てくれなかった──医師でもある陳建仁(チェン・チエンレン)副総統は記者会見でそう語った。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

ネットフリックス、ワーナー資産買収で合意 720億

ビジネス

アップル、新たなサイバー脅威を警告 84カ国のユー

ワールド

イスラエル内閣、26年度予算案承認 国防費は紛争前

ワールド

EU、Xに1.4億ドル制裁金 デジタル法違反
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:日本時代劇の挑戦
特集:日本時代劇の挑戦
2025年12月 9日号(12/ 2発売)

『七人の侍』『座頭市』『SHOGUN』......世界が愛した名作とメイド・イン・ジャパンの新時代劇『イクサガミ』の大志

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【クイズ】アルコール依存症の人の割合が「最も高い国」はどこ?
  • 2
    「ボタン閉めろ...」元モデルの「密着レギンス×前開きコーデ」にネット騒然
  • 3
    左手にゴルフクラブを握ったまま、茂みに向かって...ジャスティン・ビーバー、ゴルフ場での「問題行為」が物議
  • 4
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%…
  • 5
    主食は「放射能」...チェルノブイリ原発事故現場の立…
  • 6
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させ…
  • 7
    『羅生門』『七人の侍』『用心棒』――黒澤明はどれだ…
  • 8
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 9
    高市首相「台湾有事」発言の重大さを分かってほしい
  • 10
    【銘柄】関電工、きんでんが上昇トレンド一直線...業…
  • 1
    100年以上宇宙最大の謎だった「ダークマター」の正体を東大教授が解明? 「人類が見るのは初めて」
  • 2
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%しか生き残れなかった
  • 3
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙すぎた...「心配すべき?」と母親がネットで相談
  • 4
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させ…
  • 5
    【銘柄】関電工、きんでんが上昇トレンド一直線...業…
  • 6
    人生の忙しさの9割はムダ...ひろゆきが語る「休む勇…
  • 7
    【クイズ】17年連続でトップ...世界で1番「平和な国…
  • 8
    日本酒の蔵元として初の快挙...スコッチの改革に寄与…
  • 9
    128人死亡、200人以上行方不明...香港最悪の火災現場…
  • 10
    トランプ支持率がさらに低迷、保守地盤でも民主党が…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 4
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 7
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 10
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やって…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中