最新記事

台湾総統選

「蔡英文再選」後の台湾はどこへ

XI JINPING’S TAIWAN CHALLENGE

2020年1月15日(水)18時30分
ミンシン・ペイ(本誌コラムニスト、クレアモント・マッケンナ大学教授)

空軍ヘリの事故でこの後、蔡は選挙活動を自粛(1月1日) GENE WANG/GETTY IMAGES

<香港デモをきっかけに一気に勝利へと近づいた蔡総統。統一を迫る中国の習近平はトランプの大統領選をにらみつつ、台湾独立派の影響力拡大を「三面作戦」で封じ込める>

台湾の政治的趨勢が中国に有利に傾いていたのは、そんなに昔のことではない。2018年11月の統一地方選では、対中融和路線を取る野党・国民党が、全22県市のうち15の首長ポストを獲得。与党・民進党の蔡英文(ツァイ・インウェン)総統は、大敗の責任を取って党主席を辞任した。これで20年1月11日の次期総統選で蔡が再選を果たす見込みは一気に低下したかに見えた。

ところがこの1年で、世論の風向きは大きく変わった。11日の投票日を前に、蔡の支持率は他候補を大きく引き離しており、余裕で再選を決める勢いだ。16年の総統就任前から中国と距離を置いてきた蔡だが、この形勢逆転について感謝する相手がいるとすれば、中国の習近平(シー・チンピン)国家主席だろう。

蔡の人気が復活したのは、半年以上にわたり混乱が続く香港に、台湾市民が自分たちの未来を重ね合わせたからだ。「一国二制度」の形骸化に抗議する香港市民に対して、中国政府はあくまで強硬な姿勢を維持。それを見た台湾市民は、中国が台湾にも提案する「再統一モデル」である一国二制度を決して受け入れてはならないと決意を新たにした。

新年早々、台湾統一に向けて基本方針を示した習だが、少なくともあと4年は、反中的な台湾政府を相手にすることになりそうだ。しかも地政学的環境は一段と厄介になっている。その最大の要因はアメリカだ。

米中関係が悪化するなか、アメリカは台湾への外交的・軍事的支援にこれまでになく前向きになっている。1978年の米中国交正常化合意により、少なくとも表向きは中国との関係を台湾よりも優先してきたアメリカだが、ドナルド・トランプ大統領の就任以来、この合意を破綻させかねない措置を相次いで取ってきた。

例えば18年2月、米議会は台湾旅行法を圧倒的多数で可決し、米台両国の政府職員の相互訪問を解禁。同年8月にはトランプ政権が、中国と国交関係を樹立するために台湾との断交を決めたエルサルバドルを厳しく批判した。さらに19年12月にトランプが署名した2020会計年度の米国防権限法は、サイバーセキュリティー分野における台湾との軍事協力や合同軍事演習まで提唱している。

独立派の勢力拡大は確実か

いずれも象徴的措置にすぎないが、中国指導部は激怒している。それでも習は、これまでのところアメリカを非難するだけで、具体的な報復措置は取っていない。むしろ中国政府が懸念しているのは、アメリカの政策が台湾政治に与える影響だ。

蔡は中国との統一にはあくまで反対の態度を維持しているが、中国政府を刺激するような言動は避けてきた。だが、今回の総統選に圧勝すれば、台湾の政治的ダイナミクスは大きく変わる可能性がある。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

イスラエル軍、ガザ市住民に避難指示 高層ビル爆撃

ワールド

トランプ氏、「ハマスと踏み込んだ交渉」 人質全員の

ワールド

アングル:欧州の防衛技術産業、退役軍人率いるスター

ワールド

アングル:米法科大学院の志願者増加、背景にトランプ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:豪ワーホリ残酷物語
特集:豪ワーホリ残酷物語
2025年9月 9日号(9/ 2発売)

円安の日本から「出稼ぎ」に行く時代──オーストラリアで搾取される若者たちの実態は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    「怖すぎる」「速く走って!」夜中に一人ランニングをする女性、異変を感じ、背後に「見えたモノ」にSNS震撼
  • 3
    眠らないと脳にゴミがたまる...「脳を守る」3つの習慣とは?
  • 4
    「稼げる」はずの豪ワーホリで搾取される日本人..給…
  • 5
    「ディズニー映画そのまま...」まさかの動物の友情を…
  • 6
    ロシア航空戦力の脆弱性が浮き彫りに...ウクライナ軍…
  • 7
    「生きられない」と生後数日で手放された2本脚のダ…
  • 8
    金価格が過去最高を更新、「異例の急騰」招いた要因…
  • 9
    今なぜ「腹斜筋」なのか?...ブルース・リーのような…
  • 10
    ハイカーグループに向かってクマ猛ダッシュ、砂塵舞…
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    「怖すぎる」「速く走って!」夜中に一人ランニングをする女性、異変を感じ、背後に「見えたモノ」にSNS震撼
  • 3
    眠らないと脳にゴミがたまる...「脳を守る」3つの習慣とは?
  • 4
    50歳を過ぎても運動を続けるためには?...「動ける体…
  • 5
    【動画あり】9月初旬に複数の小惑星が地球に接近...…
  • 6
    「生きられない」と生後数日で手放された2本脚のダ…
  • 7
    「あのホラー映画が現実に...」カヤック中の男性に接…
  • 8
    「よく眠る人が長生き」は本当なのか?...「睡眠障害…
  • 9
    首を制する者が、筋トレを制す...見た目もパフォーマ…
  • 10
    「見せびらかし...」ベッカム長男夫妻、家族とのヨッ…
  • 1
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 2
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 3
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果物泥棒」と疑われた女性が無実を証明した「証拠映像」が話題に
  • 4
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 5
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 6
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 7
    将来ADHDを発症する「幼少期の兆候」が明らかに?...…
  • 8
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット…
  • 9
    イラン人は原爆資料館で大泣きする...日本人が忘れた…
  • 10
    「死ぬほど怖い」「気づかず飛び込んでたら...」家の…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中