最新記事

ISSUES 2020

中国「皇帝」習近平は盤石ではない、保守派の離反が始まった

AN EMPEROR’S DILEMMA

2019年12月26日(木)11時05分
矢板明夫(産経新聞外信部次長、前中国総局特派員)

「関税の引き上げ」「ファーウェイ排除」「新疆ウイグル自治区問題への干渉」など、屈辱的なことが連続して起きているのにアメリカにほとんど報復せず、不平等条約に近い内容で貿易交渉に合意した──。習支持者には「裏切られた」との思いが強いようだ。

米中交渉だけではない。2019年春から香港で始まったデモへの対応についても、保守派の不満が高まっている。中国メディアは香港の情報を遮断し、デモに参加するのは「ほんのひと握りの暴徒」などと報じてきた。にもかかわらず、あらゆる手段を使っても沈静化できなかった。そして、中国と香港政府はデモが始まった数カ月後に、デモ隊が求める「逃亡犯条例改正案の撤回」という要求を受け入れた。しかし、デモは依然として週末ごとに行われている。

「毛沢東がいたらこんなことにならなかった」「鄧小平もこんな優柔不断なことをしなかった」

最近、東京を訪れた中国人民解放軍の幹部は、習とその周辺への不満を口にした。習政権は8月、香港に隣接する広東省に10万人単位の武装警察部隊を展開したが、その後、国際社会から厳しく牽制され、軍を動かさなかった。11月24日、香港区議会議員選挙で民主派が8割以上を獲得して圧勝した。前出の軍幹部は「区議会選挙で、民意がはっきりと示され、武力介入が難しくなりタイミングを逃した。今の政権には本当に問題解決の能力がない」と嘆いた。

magSR191226issues_china-3.jpg

香港デモは終わる気配が見えない JORGE SILVA-REUTERS

2012年秋に発足した習近平指導部は、直後に「中国の夢」というスローガンを打ち出した。個人の成功を表す「アメリカンドリーム」と違い、「中国の富強、民族の振興」を意味する言葉だ。

そして、習は中国が鄧小平以来踏襲してきた外交路線である「韜光養晦(とうこうようかい)」(才能や野心を隠して力を蓄える)を放棄し、外洋拡張路線を展開。領土の主張を含めて、周辺国とのトラブルを恐れず、強硬姿勢を貫いた。

習はまた、中華民族の優秀さ、近代史以来受けてきた屈辱的な歴史を強調する宣伝キャンペーンを展開し、国民の民族的自尊心を高揚させた。そのやり方が、高度経済成長で自信を持ち始めた多くの民衆から歓迎されたことは事実だ。習政権発足からまだ1年余りしかたっていない2014年春、北京の高校で「毛沢東は中国をつくった。鄧小平は中国を豊かにした。習近平は中国を強くした」と真剣に教える高校教師がいたほどだ。

しかし、外洋拡張や民族主義をあおる政策は両刃の剣で、国民の政権への支持を一時的に集めたが、中国を国際社会から孤立させた。一連の強引なやり方は、やがて米中貿易戦争の遠因となり、香港のデモや、外資の撤退などによる国内の景気低迷、そして、台湾独立派の台頭につながった。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ドイツ情報機関、極右政党AfDを「過激派」に指定

ビジネス

ユーロ圏CPI、4月はサービス上昇でコア加速 6月

ワールド

ガザ支援の民間船舶に無人機攻撃、NGOはイスラエル

ワールド

香港警察、手配中の民主活動家の家族を逮捕
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に高く、女性では反対に既婚の方が高い
  • 2
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来が来るはずだったのに...」
  • 3
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が書かれていた?
  • 4
    インドとパキスタンの戦力比と核使用の危険度
  • 5
    日々、「幸せを実感する」生活は、実はこんなに簡単…
  • 6
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 7
    ウクライナ戦争は終わらない──ロシアを動かす「100年…
  • 8
    目を「飛ばす特技」でギネス世界記録に...ウルグアイ…
  • 9
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新…
  • 10
    悲しみは時間薬だし、幸せは自分次第だから切り替え…
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 4
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 5
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 6
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に…
  • 7
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来…
  • 8
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が…
  • 9
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 10
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 9
    クレオパトラの墓をついに発見? 発掘調査を率いた…
  • 10
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中