最新記事

生物

地球外からやってきた隕石を食べる古細菌が発見される

2019年12月12日(木)17時45分
松岡由希子

隕石の中に閉じ込められた金属をエネルギー源として用い、成長する...... Photo:Tetyana Milojevic

<古細菌「メタッロスパエラ・セドゥラ」が、隕石の中に閉じ込められた金属をエネルギー源として用い成長することがわかった......>

古細菌の「メタッロスパエラ・セドゥラ」は、摂氏74度の高温かつpH2の酸性環境で最適に生息する好気好酸好熱性の古細菌であり、様々な金属含有鉱石に定着する。古細菌は、化学合成独立栄養生物であり、無機化合物を酸化してエネルギーを得るのが特徴だ。

このほど、メタッロスパエラ・セドゥラが、隕石の中に閉じ込められた金属をエネルギー源として用い、成長することがわかった。

地球外物質である隕石を摂取し、処理できる

オーストリア・ウィーン大学のタチアナ・ミロジェビッチ博士を中心とする研究チームは、隕石に残された微生物の痕跡などを分析し、2019年12月2日、オープンアクセスジャーナル「サイエンティフィック・リポーツ」において、「メタッロスパエラ・セドゥラは地球外物質である隕石を摂取し、処理できる」との研究論文を発表した。これによると、メタッロスパエラ・セドゥラは、地球上の鉱物よりも隕石の鉱物に速く定着することも明らかになっている。

ミロジェビッチ博士らの研究チームは、2017年10月に発表した研究論文で、「メタッロスパエラ・セドゥラが火星土壌の模擬物質で成長し、積極的に定着する」ことを示していた。

地球上の鉱物よりも、隕石のほうがより有益

今回の研究では、2000年にアフリカ北西部で発見された重さ120キログラムの隕石「NWA1172」を対象に、ここで生息するメタッロスパエラ・セドゥラの生理機能と金属との界面について探った。

メタッロスパエラ・セドゥラは、地球起源の鉱物に比べて「NWA1172」の鉱物により速く定着。「NWA1172」は多金属物質で、細菌の代謝活性や成長を促す金属をより多く提供するのに加え、「NWA1172」の多孔性がメタッロスパエラ・セドゥラの成長率を高めることに寄与しているとみられる。ミロジェビッチ博士は「メタッロスパエラ・セドゥラにとっては、地球上の鉱物よりも、隕石のほうがより有益なのだろう」と考察している。

生物地球化学の観点から隕石を解明する第一歩となる

また、研究チームでは、複数の分光法と透過電子顕微鏡(TEM)を組み合わせ、「NWA1172」に残されたメタッロスパエラ・セドゥラの成長の痕跡を分析。メタッロスパエラ・セドゥラが隕石の鉱物の生体内変化を実行する能力を持つことを立証した。

ミロジェビッチ博士は、一連の研究成果について「生物地球化学の観点から隕石を解明する第一歩となるだろう」と述べている。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

石破首相「双方の利益になるよう最大限努力」、G7で

ワールド

米中貿易枠組み合意、軍事用レアアース問題が未解決=

ワールド

独仏英、イランに核開発巡る協議を提案 中東の緊張緩

ワールド

イスラエルとイランの応酬続く、トランプ氏「紛争終結
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:非婚化する世界
特集:非婚化する世界
2025年6月17日号(6/10発売)

非婚化・少子化の波がアメリカもヨーロッパも襲う。世界の経済や社会福祉、医療はどうなる?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「タンパク質」より「食物繊維」がなぜ重要なのか?...「がん」「栄養」との関係性を管理栄養士が語る
  • 2
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高にかっこいい」とネット絶賛 どんなヘアスタイルに?
  • 3
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波でパニック...中国の輸出規制が直撃する「グローバル自動車産業」
  • 4
    サイコパスの顔ほど「魅力的に見える」?...騙されず…
  • 5
    林原めぐみのブログが「排外主義」と言われてしまう…
  • 6
    メーガン妃とキャサリン妃は「2人で泣き崩れていた」…
  • 7
    若者に大不評の「あの絵文字」...30代以上にはお馴染…
  • 8
    ハルキウに「ドローン」「ミサイル」「爆弾」の一斉…
  • 9
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 10
    さらばグレタよ...ガザ支援船の活動家、ガザに辿り着…
  • 1
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の瞬間...「信じられない行動」にネット驚愕
  • 2
    大阪万博は特に外国人の評判が最悪...「デジタル化未満」の残念ジャパンの見本市だ
  • 3
    「セレブのショーはもう終わり」...環境活動家グレタらが乗ったガザ支援船をイスラエルが拿捕
  • 4
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波で…
  • 5
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高に…
  • 6
    ファスティングをすると、なぜ空腹を感じなくなるの…
  • 7
    今こそ「古典的な」ディズニープリンセスに戻るべき…
  • 8
    アメリカは革命前夜の臨界状態、余剰になった高学歴…
  • 9
    右肩の痛みが告げた「ステージ4」からの生還...「生…
  • 10
    脳も体も若返る! 医師が教える「老後を元気に生きる…
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    【定年後の仕事】65歳以上の平均年収ランキング、ワースト2位は清掃員、ではワースト1位は?
  • 3
    日本はもう「ゼロパンダ」でいいんじゃない? 和歌山、上野...中国返還のその先
  • 4
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊…
  • 5
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 6
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「Mi…
  • 7
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 8
    あなたも当てはまる? 顔に表れるサイコパス・ナルシ…
  • 9
    ドローン百機を一度に発射できる中国の世界初「ドロ…
  • 10
    【クイズ】EVの電池にも使われる「コバルト」...世界…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中