最新記事

太陽探査

太陽に接近し、観測データを送り続ける探査機「パーカー・ソーラー・プローブ」

2019年12月11日(水)17時10分
松岡由希子

太陽に接近し観測をつづける「パーカー・ソーラー・プローブ」 NASA

<2018年8月に打ち上げられた太陽探査機「パーカー・ソーラー・プローブ」が実施した2回目の接近観測の分析が4本同時に発表されている......>

アメリカ航空宇宙局(NASA)によって2018年8月12日に打ち上げられた太陽探査機「パーカー・ソーラー・プローブ」は、7年間で24回にわたり太陽の接近観測を行い、コロナ(太陽の周りに広がる高温の大気層)や太陽風(太陽から吹き出す高温で電離した粒子の流れ)などの観測データを収集するミッションを実行している。

2018年10月31日から11月11日にかけて初の接近観測に成功した後、2019年3月30日から4月19日までの期間、2回目の接近観測を実施した。

●参考記事
NASAの太陽探査機、太陽に接近し、コロナから伸びた長い流線をとらえる
太陽コロナに触れる探査機、熱で溶けない4つの理由:NASAが8月打ち上げへ

太陽風は、不安定で、複雑で、予測不能

米国の大学や研究機関では、これまでの接近観測で得られた観測データの分析がすすめられており、12月4日、学術雑誌「ネイチャー」において研究論文4本が同時に発表された。

5 New Discoveries from NASA's Parker Solar Probe


米カリフォルニア大学バークレー校のスチュワート・ベイル教授らの研究チームは、「パーカー・ソーラー・プローブ」が太陽から1500万マイル(約2414万キロ)離れた地点で観測したデータを分析し、「太陽付近にある太陽風は、地球の近くで観測されるものよりも、不安定で、複雑で、予測不能である」と明らかにした。この観測結果では、小さなコロナホールから低速の太陽風が出ていることもわかっている。

米ミシガン大学のジャスティン・カスパー教授らは、太陽風が太陽からどのように流れ出しているのかを解明した 。地球近くで観測すると、太陽風はほぼ放射線状に流れているが、太陽から2000万マイル(約3219万キロ)あたりで、太陽の自転と同じ方向に引っ張る力が太陽風に加わるようになるという。近日点に近づくほどその速度は速くなり、最速で毎秒35〜50キロメートルに達した。

塵で溢れた太陽系において、塵のないエリアが存在する可能性があることもわかった。アメリカ海軍研究所(NRL)のラッセル・ハワード博士らは、「パーカー・ソーラー・プローブ」の撮影装置「WISPR」がとらえた画像を分析。太陽からおよそ700万マイル(約1126万キロ)の地点でちりが薄くなりはじめ、「パーカー・ソーラー・プローブ」が最も太陽に接近した400マイル(約644万キロ)の地点までどんどん減り続けた。

エネルギー粒子の現象をとらえる

また、米プリンストン大学の研究プロジェクト「ISOIS」では、地球近くでは観測しえない小さなエネルギー粒子による現象など、太陽の近くで起こっているエネルギー粒子の現象をいくつもとらえている


NASAのニコラ・フォックス博士は「太陽は我々が唯一、近くで観測できる星だ」とし、「太陽近くで観測データを収集することによって、地球を含め、宇宙に存在する星の解明を大きく前進させている」と、「パーカー・ソーラー・プローブ」のミッションの意義を強調している。

「パーカー・ソーラー・プローブ」の第一回および第二回の接近観測で収集したデータはNASAの公式ウェブサイトで公開されている。「パーカー・ソーラー・プローブ」では、2020年1月29日、接近観測を行う計画だ。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

韓国GDP、第1四半期は前期比+1.3% 市場予想

ビジネス

バイオジェン、1―3月利益が予想超え 認知症薬低調

ビジネス

フォード、第2四半期利益が予想上回る ハイブリッド

ワールド

バイデン氏陣営、選挙戦でTikTok使用継続する方
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴らす「おばけタンパク質」の正体とは?

  • 3

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗衣氏への名誉棄損に対する賠償命令

  • 4

    心を穏やかに保つ禅の教え 「世界が尊敬する日本人100…

  • 5

    マイナス金利の解除でも、円安が止まらない「当然」…

  • 6

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 7

    ケイティ・ペリーの「尻がまる見え」ドレスに批判殺…

  • 8

    ワニが16歳少年を襲い殺害...遺体発見の「おぞましい…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    イランのイスラエル攻撃でアラブ諸国がまさかのイス…

  • 1

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 2

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 3

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた「身体改造」の実態...出土した「遺骨」で初の発見

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 6

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 7

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 8

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 9

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 10

    「毛むくじゃら乳首ブラ」「縫った女性器パンツ」の…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこと」目からうろこの健康法

  • 4

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の…

  • 5

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 10

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中