香港で「超人」と呼ばれる大富豪、習近平との「長く特殊な関係」
2015年9月、こうした動きが報じられたのに続いて、李氏は中国本土のメディアから、愛国心に欠けていると厳しい批判を浴びた。中国共産党の主力機関紙である人民日報は、李氏について「物事が順調なときは喜んでその恩恵を受ける」のに、厳しい時期には頼りにならない、と評するコメントをソーシャルメディアに投稿した。
だがこの時期にも李氏が支配する企業は、海外企業の株式に何十億ドルも注ぎ込む一方で、香港と中国本土では縮小を続けた。この傾向は今もペースダウンしていない。
2015年以降、李氏の企業は、カナダ、イタリア、オーストラリアといった国で総額700億ドル以上の企業買収に関与してきた。しかし同じ時期、中国本土と香港における5億ドル以上の規模の企業買収は、香港を本拠とする運輸企業を他の2人の投資家との共同出資により8億4800万ドルで買収した1件だけにとどまっている。
さらに同じ時期、李氏は香港・中国本土の4企業から総額110億ドル以上の投資を引き揚げている。ロイターは、金融データサービスのディーロジックの数値を元にこれらの数値を計算した。データには李氏の企業による5億ドル以上(債務を含む)の取引案件が含まれている。
中国共産党が香港の有力者らに求めているのは投資だけではない。香港にある大手中国国有企業の上級幹部によれば、習近平氏と香港エリート層のあいだで2017年に行われた会合で、習氏が述べた指示は曖昧さのないものだったという。この会合には李氏も出席していた。
この幹部は、「習氏のメッセージは非常に明確だった。香港財界と有力者は社会的な責任を担う必要があり、中央政府が香港社会の安定を維持することを支えなければならない、ということだ」と語る。
一握りに富が集中
抗議行動が香港を揺るがすなかで、こうした中央政府の期待はますます緊急性を増している。
著名な財界人で、林鄭月娥(キャリー・ラム)香港行政長官の経済顧問を務めるアラン・ジーマン氏によれば、中国当局者は、香港では富が一部に集中していることが不満の大きな原因であると考えるようになったという。ジーマン氏は、英国統治時代に遡る土地競売制度によって、少数の人間が市場を独占することが可能になっており、他の誰も入札に参加できないレベルまで価格が上昇してしまっている、と話す。
こうした仕組みによって住宅価格は非常に高いままとなり、家族は狭小な住宅に押し込められ、快適な住まいへの引っ越しは困難な状況だ。
デベロッパーもようやく理解するようになった、とジーマン氏は言う。同氏によれば、香港企業ニューワールド・ディベロップメントは、保有する土地のうち300万平方フィートを、低所得者用住宅のために確保すると発表した。