最新記事

自由貿易

アジア版自由貿易協定「RCEP」の長所と短所

Asia Bets on Free Trade

2019年11月13日(水)16時50分
キース・ジョンソン

RCEP妥結の障害は?

ずばりインドだ。インドは、工業・農業部門が激しい競争にさらされるのを嫌っていた。対中貿易で巨額の赤字を抱えているため、RCEPの参加で安価な中国製品が流入することも恐れている。

インドは過去に締結した自由貿易協定の恩恵をあまり受けておらず、これも大規模な協定への参加意欲が弱い理由だ。鉄鋼やアルミニウム、繊維や農業をはじめとする各部門はいずれも、RCEPに参加すれば多くの失業者が出かねないと反発してきた。

5月の総選挙で下院の過半数を獲得して再選を果たしたナレンドラ・モディ首相は右派だが、だからといって自由貿易を支持しているわけでは決してないと、米外交問題評議会のアリッサ・エアーズは言う。「インドの一部極右勢力は、中国製品が大量流入することになるから、今以上に開かれた貿易は容認できないと言っている」

だが経済成長と雇用創出を公約に掲げたモディの再選は、より開かれたインドの実現につながるのでは?


そこが大きな問題だ。モディは経済成長と製造部門の競争力強化を公約に掲げて首相に選出された。

これはインドがRCEP参加による長期的な利益と引き換えに、一定の短期的な痛みを受け入れる準備があることを意味する。RCEPに参加すれば新たな市場に優先的にアクセスできるし、長い目で見れば国内企業の競争力を強化することができるからだ。

しかしモディの経済政策は自由貿易を促進するどころか、むしろその逆で、国産化推進の名の下に幅広い物品の関税を引き上げている。「貿易の開放という点において、インドは後退しつつある」と、エアーズは言う。

そのために4日の会合では、インドがどう出るかが注目されていた。

輸入品の流入よりも、アジア圏の大規模自由貿易の傍観者となることで生じる損失のほうが大きいと判断するのか(いくつかの調査によればインドはRCEPに参加するよりも不参加のほうが失うものが多い)。それとも医療や衛生面など国内の改革を推し進めるほうが、貿易を開放するより利益が大きいと判断するのか。

結局モディは4日、RCEPの諸条件はインドの懸念に対処するものではないとして、交渉撤退を表明。RCEPは差し当たって、その他の15カ国で交渉を進めることになった。ただし今後の条件次第では、インドが改めて交渉に復帰する可能性もある。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

訂正-米、イランのフーシ派支援に警告 国防長官「結

ワールド

トランプ氏、ウォルツ大統領補佐官解任へ=関係筋

ビジネス

米債市場の動き、FRBが利下げすべきとのシグナル=

ビジネス

米ISM製造業景気指数、4月48.7 関税コストで
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に高く、女性では反対に既婚の方が高い
  • 2
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来が来るはずだったのに...」
  • 3
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が書かれていた?
  • 4
    ウクライナ戦争は終わらない──ロシアを動かす「100年…
  • 5
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 6
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新…
  • 7
    悲しみは時間薬だし、幸せは自分次第だから切り替え…
  • 8
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 9
    クルミで「大腸がんリスク」が大幅に下がる可能性...…
  • 10
    【徹底解説】次の教皇は誰に?...教皇選挙(コンクラ…
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 4
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 5
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 6
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に…
  • 7
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 8
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来…
  • 9
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 10
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 9
    クレオパトラの墓をついに発見? 発掘調査を率いた…
  • 10
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中