最新記事

中国

トランプ「香港人権法」署名に中国報復警告──日本は?

2019年11月29日(金)12時30分
遠藤誉(中国問題グローバル研究所所長)

その怒りが、どんなに激しく炸裂したかは、想像に難くない。

まず外交部は、その正式のウェブサイトで外交部声明(2019年11月28日)

を発表。一般のコメントではなく、「声明」であることは注目に値する。

同じ内容を新華網も伝え、また中央テレビ局CCTVも伝えている。

環球時報も例外ではない。

報復措置の内容は?

外交部声明の最後の部分では、26日に外交部の耿爽報道官が使った言葉と同じ言葉を使っているが、その後に「すべての結果はアメリカが負うべし」という文言が付け加わっている。

この「すべての結果」とは、現在進行中の米中貿易交渉における「第一段階の合意はないものと思えよ」ということであるのかもしれず、だとすると「中国によるアメリカの農産品の爆買いはないからな」と脅しているのかもしれない。そうなるとトランプ大統領が中国に高関税をかけたことにより困窮している大豆農家などがトランプの大統領再選のための「票田」から離れていく。「大統領に再選されなくてもいいんだな」という、トランプの泣き所を指したメッセージとも受け取れる。

いずれにせよ、「報復措置」はトランプ大統領が最も困るポイントに焦点を絞ることは明確だ。

その意味で逆に、「法を執行する権限は大統領にある」というトランプ大統領の声明にすがり、それを最後の威嚇にしようという狙いもあるだろうと解釈できる。

一方、CCTVにおける解説などを詳細に考察していると、総合的には「アメリカの動きが他の西側諸国に波及する」のを、中国は恐れているということも見えてくる。

日本は何を考えているのか?

こんなときに、日本は何を考えているのだろうか。

習近平国家主席の「日本があるから大丈夫」という声が聞こえるようなこの時期に、中国に見透かされている日本政府は、今般の香港法の成立に対してどう回答しているのか、多くの日本メディアが報道した。

11月28日、記者からの香港法成立に関する質問に菅官房長官は「他国の議会の動向について政府としてコメントは控える」としつつ、来春の習近平国家主席の国賓来日への影響に関しては「考えていない」と答えたという。

つまり、このような国際情勢の中にあっても、安倍政権は習近平を国賓として招聘することを断念していないのである。

それがどのようなシグナルを全世界に発信していくか、安倍政権には熟考して頂きたい。今からでも遅くない。まさに「懸崖勒馬(けんがい・ろくば)せよ」と言いたい。まだ間に合う。

11月27日付のコラム「香港民主派圧勝、北京惨敗、そして日本は?」で書いたばかりなので理由に関しては繰り返さないが、そのコラムの後半にあるグラフを見て頂きたい。かかる状況の中で、絶対に習近平を国賓として招聘すべきではない。それだけは一歩も譲らず主張し続ける。

日本の未来が描けないとは、日本の野党もだらしないものだ。

いずれにせよ、ある意味で、民主主義政治の脆弱性を痛感する。

※当記事はYahoo!ニュース 個人からの転載です。

[執筆者]遠藤 誉
中国問題グローバル研究所所長、筑波大学名誉教授、理学博士
1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。中国問題グローバル研究所所長。筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会学研究所客員研究員・教授などを歴任。著書に『米中貿易戦争の裏側 東アジアの地殻変動を読み解く』(11月9日出版、毎日新聞出版 )『「中国製造2025」の衝撃 習近平はいま何を目論んでいるのか』、『毛沢東 日本軍と共謀した男』、『卡子(チャーズ) 中国建国の残火』、『チャイナ・セブン <紅い皇帝>習近平』、『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』、『中国動漫新人類 日本のアニメと漫画が中国を動かす』『中国がシリコンバレーとつながるとき』など多数。

この筆者の記事一覧はこちら≫

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

物価目標の実現「着実に近づいている」、賃金上昇と価

ワールド

拙速な財政再建はかえって財政の持続可能性損なう=高

ビジネス

トヨタの11月世界販売2.2%減、11カ月ぶり前年

ビジネス

予算案規模、名目GDP比ほぼ変化なし 公債依存度低
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 2
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足度100%の作品も、アジア作品が大躍進
  • 3
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...どこでも魚を養殖できる岡山理科大学の好適環境水
  • 4
    素粒子では「宇宙の根源」に迫れない...理論物理学者…
  • 5
    ジョンベネ・ラムジー殺害事件に新展開 父「これま…
  • 6
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツ…
  • 7
    ノルウェーの海岸で金属探知機が掘り当てた、1200年…
  • 8
    ゴキブリが大量発生、カニやロブスターが減少...観測…
  • 9
    「個人的な欲望」から誕生した大人気店の秘密...平野…
  • 10
    「時代劇を頼む」と言われた...岡田准一が語る、侍た…
  • 1
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツよりコンビニで買えるコレ
  • 2
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低く、健康不安もあるのに働く高齢者たち
  • 3
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開したAI生成のクリスマス広告に批判殺到
  • 4
    自国で好き勝手していた「元独裁者」の哀れすぎる末…
  • 5
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 6
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 7
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦…
  • 8
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足…
  • 9
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 10
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリ…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 5
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 6
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 7
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 8
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 9
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 10
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中