最新記事

韓国

文在寅政権の「自滅」を引き寄せる大統領側近らの忖度

2019年11月7日(木)11時45分
高英起(デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト) ※デイリーNKジャパンより転載

政府の専門機関と青瓦台の間でこうした意見の食い違いが少なからず生じている Chalinee Thirasupa-REUTERS

<青瓦台の大統領側近らは対北融和を進めたい大統領の意思を忖度し、北朝鮮の脅威を矮小化している疑いがある>

韓国の情報機関、国家情報院(国情院)の徐薫(ソ・フン)院長は4日に開かれた国会情報委員会の国政監査で、北朝鮮は大陸間弾道ミサイル(ICBM)の発射に移動式発射台(TEL)を利用していると明かした。

この3日前、青瓦台(韓国大統領府)の鄭義溶(チョン・ウィヨン)国家安保室長が国会運営委員会の国政監査で、「東倉里(トンチャンリ)のミサイル発射場が廃棄されれば北朝鮮にICBM発射能力はない」と断言したのを覆す形となった。

日韓関係にも弊害

韓国では以前から、国防省や外務省、国情院など専門機関と青瓦台の間で、こうした意見の食い違いが少なからず生じている。それが最近になって、より顕著になっているように見える。

上述した事例のほかにも、北朝鮮が最近、試射を重ねている短距離弾道ミサイルやロケット砲、潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)について鄭氏が「韓国の安全保障にとって重大な脅威にはならない」としたのに対し、国情院は、一連の新兵器が発射兆候をつかむのが難しい固体燃料を使用していることを理由に、脅威になり得るとの認識を示してる。

このような食い違いが生じるのは、各専門機関の分析は担当部門に長く携わったエキスパートが主導しているのに対し、青瓦台は政権交代時に政治任用された大統領の側近たちが中心となっているためだ。つまり、専門機関が客観的事実の積み重ねの上に結論を求めているのに対し、青瓦台の大統領側近らは対北融和を進めたい大統領の意思を忖度し、北朝鮮の脅威を矮小化している疑いがあるわけだ。

これと同じ現象は、米韓関係や日韓関係にも見られる。

鄭景斗(チョン・ギョンドゥ)国防相は4日の国会国防委員会で、22日に終了する予定の日韓軍事情報包括保護協定(GSOMIA)について、「我々の安保に少しでも役に立つなら、このようなことはずっと維持されるべき」との見解を述べた。同時に、日本による輸出規制が解消されるべきとも言及しているが、鄭景斗はこれまでにも再三にわたり、GSOMIAの必要性を指摘している。

また韓国メディアの報道によれば、このままGSOMIAを破棄した場合、これに一貫して反対してきた米国からどのようなリアクションがあるか、そのリスクの大きさについて外務省は十分に認識しているという。

それにもかかわらず、青瓦台は日本が輸出規制措置を撤回しない以上、GSOMIA破棄も撤回しない意思を固めているという。しかし、日本はこれにまったく応じようとしておらず、客観的に見て応じる必要性もない。

青瓦台は恐らく、このままGSOMIA破棄に突き進むだろう。そしてそれが現実となり、韓国が同盟の中で孤立したとき、韓国国内では青瓦台が孤立し、いよいよ文在寅政権の危機につながっていくのかもしれない。

参考記事:「韓国外交はひどい」「黙っていられない」米国から批判続く

参考記事:「何故あんなことを言うのか」文在寅発言に米高官が不快感

[筆者]
高英起(デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト)
北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。関西大学経済学部卒業。98年から99年まで中国吉林省延辺大学に留学し、北朝鮮難民「脱北者」の現状や、北朝鮮内部情報を発信するが、北朝鮮当局の逆鱗に触れ、二度の指名手配を受ける。雑誌、週刊誌への執筆、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に『コチェビよ、脱北の河を渡れ―中朝国境滞在記―』(新潮社)、『金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』(宝島社)、『北朝鮮ポップスの世界』(共著、花伝社)など。近著に『脱北者が明かす北朝鮮』(宝島社)。

※当記事は「デイリーNKジャパン」からの転載記事です。

dailynklogo150.jpg


今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

小泉防衛相、中国軍のレーダー照射を説明 豪国防相「

ワールド

米安保戦略、ロシアを「直接的な脅威」とせず クレム

ワールド

中国海軍、日本の主張は「事実と矛盾」 レーダー照射

ワールド

豪国防相と東シナ海や南シナ海について深刻な懸念共有
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:日本時代劇の挑戦
特集:日本時代劇の挑戦
2025年12月 9日号(12/ 2発売)

『七人の侍』『座頭市』『SHOGUN』......世界が愛した名作とメイド・イン・ジャパンの新時代劇『イクサガミ』の大志

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 2
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価に与える影響と、サンリオ自社株買いの狙い
  • 3
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺るがす「ブラックウィドウ」とは?
  • 4
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 5
    ホテルの部屋に残っていた「嫌すぎる行為」の証拠...…
  • 6
    「搭乗禁止にすべき」 後ろの席の乗客が行った「あり…
  • 7
    仕事が捗る「充電の選び方」──Anker Primeの充電器、…
  • 8
    ビジネスの成功だけでなく、他者への支援を...パート…
  • 9
    『羅生門』『七人の侍』『用心棒』――黒澤明はどれだ…
  • 10
    【クイズ】アルコール依存症の人の割合が「最も高い…
  • 1
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 2
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価に与える影響と、サンリオ自社株買いの狙い
  • 3
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺るがす「ブラックウィドウ」とは?
  • 4
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 5
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%…
  • 6
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させ…
  • 7
    【クイズ】アルコール依存症の人の割合が「最も高い…
  • 8
    ホテルの部屋に残っていた「嫌すぎる行為」の証拠...…
  • 9
    人生の忙しさの9割はムダ...ひろゆきが語る「休む勇…
  • 10
    【銘柄】関電工、きんでんが上昇トレンド一直線...業…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 4
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 7
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 8
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 9
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 10
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中