最新記事

クルド

トランプの「裏切り」で事態急変 中東諸国におけるクルド人の歴史

2019年10月22日(火)11時46分

シリアのクルド人勢力はトルコ軍の侵攻に対抗するためシリアのアサド政権軍と協力することで合意、シリア北部の将来に暗雲が垂れ込めた。写真は12日、イラク北部エルビルで、トルコ軍のシリア侵攻に抗議するクルド人住民ら(2019年ロイター/Azad Lashkari)

シリアのクルド人勢力はトルコ軍の侵攻に対抗するためシリアのアサド政権軍と協力することで合意、シリア北部の将来に暗雲が垂れ込めた。

米軍はこのほど、シリア北部からの撤収を開始。トランプ米政権の突然の方針転換は、クルド人勢力に対する裏切りだと批判されている。

トルコ政府は、国内に住むシリア難民数百万人を移住させる「安全地帯」をシリア側に設置するよう求めている。トルコが安全保障上の脅威と見なすクルド人民兵組織「人民防衛部隊」(YPG)に対する緩衝地帯とする目的がある。

トルコ、シリア、イラク、イランの4カ国には大勢のクルド人が少数民族として住み、数十年間にわたって抑圧を受けてきた。各国のクルド人らは、程度は異なるが自治権を求めている。

各国におけるクルド人の状況をまとめた。

◎歴史

クルド人はイスラム教スンニ派が中心で、ペルシャ語系の言語を話し、主な居住地はアルメニア、イラク、イラン、シリア、トルコ国境にまたがる山岳地帯。

クルド人の民族主義はオスマン帝国末期の1890年代に高まった。第1次大戦後、1920年代のセーブル条約によりクルド人の独立が約束された。

しかし3年後、トルコの初代大統領アタチュルクが合意を破棄。24年批准のローザンヌ条約により、クルド人は中東の新たな国々に分断された。

◎シリア

2011年に反体制デモが勃発するまで、クルド人はシリアの人口の8─10%を占めていた。

シリアはアラブ民族主義の下、クルド人数千人の市民権を剥奪し、クルド語の使用を禁止し、政治活動を弾圧した。

内戦中、アサド政権軍はロシアとイランの後ろ盾を得て主にスンニ派の反体制派の鎮圧に注力し、北部や東部でのクルド人勢力の自治状態は黙認した形になっていた。

アサド大統領は北東部を奪還すると宣言しながらも、クルド人勢力とのパイプをある程度維持した。

シリアのクルド人勢力指導部は、同国からの分離ではなく同国内での自治を望むとしている。

YPGは、過激派組織「イスラム国」(IS)打倒に向けた米軍との協力によって勢力を拡大。米国はYPGに安全保障上の「傘」を提供する一方、YPGの自治計画には反対してきた。

内戦によってクルド人勢力は最大の勝ち組の1つとなり、シリアの約4分の1を支配した。支配した地域は石油、水資源、農地に富み、独自の軍隊と官僚組織を備えている。

しかし米軍の撤収決定と、クルド人勢力とアサド政権軍との協力合意により、この地域の将来は不透明になった。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

中国、今後5年間で財政政策を強化=新華社

ワールド

インド・カシミール地方の警察署で爆発、9人死亡・2

ワールド

トランプ大統領、来週にもBBCを提訴 恣意的編集巡

ビジネス

訂正-カンザスシティー連銀総裁、12月FOMCでも
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界最高の投手
特集:世界最高の投手
2025年11月18日号(11/11発売)

日本最高の投手がMLB最高の投手に──。全米が驚愕した山本由伸の投球と大谷・佐々木の活躍

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 2
    ヒトの脳に似た構造を持つ「全身が脳」の海洋生物...その正体は身近な「あの生き物」
  • 3
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 4
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前…
  • 5
    「不衛生すぎる」...「ありえない服装」でスタバ休憩…
  • 6
    筋肉の正体は「ホルモン」だった...テストステロン濃…
  • 7
    「イケメンすぎる」...飲酒運転で捕まった男性の「逮…
  • 8
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 9
    「腫れ上がっている」「静脈が浮き...」 プーチンの…
  • 10
    『トイ・ストーリー4』は「無かったコト」に?...新…
  • 1
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 2
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 3
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前に、男性が取った「まさかの行動」にSNS爆笑
  • 4
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評…
  • 5
    ドジャースの「救世主」となったロハスの「渾身の一…
  • 6
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 7
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 8
    「イケメンすぎる」...飲酒運転で捕まった男性の「逮…
  • 9
    筋肉を鍛えるのは「食事法」ではなく「規則」だった.…
  • 10
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 7
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 10
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中