最新記事

香港デモ

香港キャセイ航空に乱気流 中国当局が抗議デモで締め付け

2019年10月5日(土)12時20分

香港のキャセイパシフィック航空が崖っぷちに立たされている。写真は8月、香港の空港に着陸するキャセイパシフィック機(2019年 ロイター/Thomas Peter)

香港のキャセイパシフィック航空<0293.HK>が崖っぷちに立たされている。一部社員が香港の抗議デモに参加したり、支持を表明したことが中国の航空当局の逆鱗に触れ、搭乗員リストの承認を拒否されたり執拗な機体検査を課されるなど締め付けを受けており、独立企業としての長期的な存続を危ぶむ声さえ聞かれる。

パイロットなどの解雇や辞任相次ぐ

中国民用航空局(CAAC)は8月9日、デモに関わったキャセイ社員が中国本土で運航に携わることを禁じたが、事情に詳しい関係者2人によるとこの発表以来、説明のないままキャセイの搭乗員リストがまるまる拒否される事例が何度か発生した。関係者の1人の話では、キャセイは急きょ人員のやり繰りを迫られたほか、安全保障上の脅威とみなされる搭乗員を見付けるためにソーシャルメディアを調べている。

パイロット4人は、中国当局によるキャセイへの圧力は着陸時の機体への立ち入り検査の急増にも表れていると指摘した。

キャセイ社内は不穏な空気が広がり、独立した企業としての先行きは非常に不透明で中国の意のままになってしまうのではないか、と社員たちがロイターに打ち明けた。

CAACからデモ支持者との烙印を押され、中国本土での運航業務に携わるのを禁止された社員は、そこでキャリアが事実上終わる。航空業界の労働組織「香港空勤人員総工会」によると、CAACの搭乗禁止措置により、これまでにパイロット8人、キャビンアテンダント18人など計30人が解雇されたり、辞任に追い込まれたりした。8月にはルパート・ホッグ氏が最高経営責任者(CEO)もキャセイを去った。

キャセイのパイロットだった民主派議員のジェレミー・タム氏は「事態は急変した」と語り、CAACがデモ関与職員排除指令を下した後の状況を政治裁判になぞらえた上で、あっという間に社員への脅威が巨大化してしまったと付け加えた。

減点法の恐ろしさ

各国の航空当局は航空会社に安全基準を守らせるため、空港で定期的に機体への立ち入り検査を実施している。しかしパイロットは、CAACのデモ関与職員排除指令以降は検査が日常化して、搭乗員の携帯電話に反中国的な写真やメッセージがないかどうか調べられるという異常な事態となったせいで、運航に遅れが生じていると話した。

検査の厳格化は、当局が外装の汚れなど細かな問題を「落ち度」とみなす可能性を高めている。

パイロットの説明では、CAACの機体検査は減点法式となっており、当局が検査結果によってキャセイの運航数を削減したり、目的地を減らしたり、最悪の場合は中国本土への飛行を禁止することも可能だ。

そのためキャセイの経営陣は職員に対して最大限の努力で規則違反を避けるよう求めている。

CAACは他の規制当局に比べて規則違反に対して積極的に動く傾向もある。2017年には安全に関わる2件の違反を犯したエミレーツ航空が半年間、事業拡大を禁じられた。中国国際航空(エアチャイナ)

<601111.SS>も昨年、パイロットがコクピットで電子たばこを吸おうとして操作を誤り、機体が急降下した事案により、ボーイング737型機の運航の10%削減を命じられた。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

和平計画、ウクライナと欧州が関与すべきとEU外相

ビジネス

ECB利下げ、大幅な見通しの変化必要=アイルランド

ワールド

台湾輸出受注、10カ月連続増 年間で7000億ドル

ワールド

中国、日本が「間違った」道を進み続けるなら必要な措
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界も「老害」戦争
特集:世界も「老害」戦争
2025年11月25日号(11/18発売)

アメリカもヨーロッパも高齢化が進み、未来を担う若者が「犠牲」に

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 2
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判殺到、そもそも「実写化が早すぎる」との声も
  • 3
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR動画撮影で「大失態」、遺跡を破壊する「衝撃映像」にSNS震撼
  • 4
    ロシアはすでに戦争準備段階――ポーランド軍トップが…
  • 5
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 6
    【銘柄】イオンの株価が2倍に。かつての優待株はなぜ…
  • 7
    アメリカの雇用低迷と景気の関係が変化した可能性
  • 8
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」…
  • 9
    【クイズ】中国からの融資を「最も多く」受けている…
  • 10
    「これは侮辱だ」ディズニー、生成AI使用の「衝撃宣…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 4
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 5
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 6
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 7
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前…
  • 8
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 9
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 10
    筋肉の正体は「ホルモン」だった...テストステロン濃…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 4
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 5
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 6
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 7
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 8
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 9
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 10
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中