最新記事

中東

トランプの無為無策がイラン危機を深刻化させる

Trump’s Incoherence on Iran

2019年9月24日(火)19時50分
フレッド・カプラン(スレート誌コラムニスト)

サウジアラビアのムハンマド・ビン・サルマン皇太子と握手するトランプ BANDAR ALGALOUD-COURTESY OF SAUDI ROYAL COURT-REUTERS

<最大限の圧力に屈しないイランと無策のトランプ──サウジも加わって対立の下方スパイラルが止まらない>

犯人はイランなのか。サウジアラビア東部の石油施設2カ所が9月14日、ドローンと巡航ミサイルに攻撃された事件をめぐる問いの答えは、イエスである可能性が高い。となれば、さらに重大な疑問が浮上する。ドナルド・トランプ米大統領はどう動くのか──。

トランプは、極めて厳しい経済制裁によってイランの体制を崩壊させようと決意しているようだ。だがその一方で、戦争には消極的な姿勢を見せている。

今年6月にイランが米軍の無人偵察機を撃墜した事件では、報復措置として軍事攻撃を承認したものの、直前になって撤回。9月10日に解任を発表した強硬派のジョン・ボルトン大統領補佐官(国家安全保障担当)とは、トランプが対イラン交渉再開に向けた制裁緩和をほのめかしたことで対立していた。

タカ派かと思えばハト派になり、時にはタカ派であってハト派になる......。トランプの態度に困惑させられるのは、実際、態度が分かりにくいからだ。

自らの「最大限の圧力」路線によってイランは折れて要求に応じると、トランプは本気で思っていたのだろう。だが、イランに屈する気がないことが明らかになり、トランプは途方に暮れている。代替案となる「プランB」が存在しないからだ(ただし、そもそも「プランA」があったかも疑問だ。トランプの要求とは何か、当初からはっきりしなかった)。

2つの要因と解決の障害

米民間調査団体、グローバルセキュリティー・ドットオルグを率いる国防・情報政策専門家ジョン・パイクに言わせれば、サウジアラビアの石油施設を攻撃したのがイランであることは「疑問の余地がない」。イランは関与を否定し、イエメンのイスラム教シーア派反政府武装勢力ホーシー派が犯行を認める声明を出しているが、仮にイランが犯人でなくても、イランの許可なしにホーシー派が攻撃を行うことはあり得ないという。

理由は2つある。第1に、今回の攻撃はホーシー派には不可能なほど大規模かつ精度の高いものだった。衛星画像では、19カ所に上る着弾点が確認されている。第2に、着弾点のうち15カ所は施設の西北西側に集中している。サウジアラビアの南に位置するイエメンではなく、イランから攻撃があったことを示唆する事実だ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米ウクライナ首脳、日本時間29日未明に会談 和平巡

ワールド

訂正-カナダ首相、対ウクライナ25億加ドル追加支援

ワールド

ナイジェリア空爆、クリスマスの実行指示とトランプ氏

ビジネス

中国工業部門利益、1年ぶり大幅減 11月13.1%
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 2
    マイナ保険証があれば「おくすり手帳は要らない」と考える人が知らない事実
  • 3
    【銘柄】子会社が起訴された東京エレクトロン...それでも株価が下がらない理由と、1月に強い秘密
  • 4
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 5
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 6
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」と…
  • 7
    「アニメである必要があった...」映画『この世界の片…
  • 8
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 9
    2026年、トランプは最大の政治的試練に直面する
  • 10
    素粒子では「宇宙の根源」に迫れない...理論物理学者…
  • 1
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 2
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 3
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 4
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 5
    中国、インドをWTOに提訴...一体なぜ?
  • 6
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツ…
  • 7
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低…
  • 8
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 9
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足…
  • 10
    アベノミクス以降の日本経済は「異常」だった...10年…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 3
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 4
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 5
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「…
  • 6
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 7
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 8
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 9
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 10
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中