最新記事

中東

サウジ石油施設攻撃はトランプがなめられたから起きた

This Is the Moment That Decides the Future of the Midle East

2019年9月19日(木)17時20分
スティーブン・クック

サウジアラビアのサルマン国王の王宮を訪問したドナルド・トランプは、歓迎のために披露された剣の舞に参加した(2017年5月)Jonathan Ernst- REUTERS

<サウジアラビアの主要石油施設が攻撃された。ここで石油の道を死守しなければ、アメリカは中東に居場所を失うかもしれない>

第2次大戦後、アメリカの中東政策は「3つの中核的利益」に基づいて動いてきた。第一が石油の自由な流通を守ること、第二がイスラエルの安全を守ること、第三は、これら2つの中核的利益を侵しアメリカに挑戦する国やグループが表れないようにすることだ。

つまり、イスラエルとの「特別な」関係を別にすれば、アメリカが中東に関わる理由は石油しかない。

だからこそ、サウジアラビアの重要な石油処理施設が攻撃を受けた今は、きわめて重要な時期だ。トランプ政権がどう対処するかによって、アメリカの権力層が今もエネルギー資源を中核的な国益と考えているのか、あるいは逆に中東を去ろうとしているのか、それがはっきりするだろう。

9月14日の朝、サウジアラビア東部アブカイクとクライスにある主要石油施設が無人機などによる攻撃を受け、イエメンの武装勢力ホーシー派による犯行らしい、というニュースが伝わると、外交専門家は、サウジアラビアはイエメンの内戦に介入して恨みを買っているとか、ホーシー派はイランの影響下にあるとか、様々な議論が起こった。

<参考記事>サウジのムハンマド皇太子、韓国に防空システム構築支援を要請

ポンペオはイランを非難

しかし今回の攻撃については、マイク・ポンペオ米国務長官がイランを名指しで非難したのちも謎は深まる一方だ。イラン政府には間接的な責任しかない可能性が高いことからすると、対イラン強硬派のポンペオがイランを直接非難したのは少々やりすぎだったかもしれない。

だがポンペオのような発想も、あながち理不尽ではない。イランは中東で、長年にわたって代理戦争を展開してきた。ホーシー派のような武装勢力に金、技術、武器を提供して、汚い仕事をさせてきたのだ。

だからポンペオの主張に同意する者もいる。ホーシー派はドローンをもっていないし、イラン南西部から巡航ミサイルが飛んできた、という話もある。だが実際のところ、それは一番重要な問題ではない。

肝心なのは、1945年2月にアメリカのフランクリン・ルーズベルト大統領がサウジアラビアのアブドルアジズ・イブン・サウード国王と会って石油供給の約束を取り付けて以降、アメリカはずっとシーレーン防衛を中東政策の柱に据えてきたということだ。

イラクのクウェート侵攻をきっかけに1991年に始まった湾岸戦争も、単に「石油を守る戦争」ではなく、「石油の道を守る戦争」だった。

<参考記事>サウジ石油施設攻撃は歴史的転換点、イランは「非対称戦争」で原油相場を人質に

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

ドル34年ぶり155円台、介入警戒感極まる 日銀の

ビジネス

エアバスに偏らず機材調達、ボーイングとの関係変わら

ビジネス

独IFO業況指数、4月は予想上回り3カ月連続改善 

ワールド

イラン大統領、16年ぶりにスリランカ訪問 「関係強
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴らす「おばけタンパク質」の正体とは?

  • 2

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗衣氏への名誉棄損に対する賠償命令

  • 3

    マイナス金利の解除でも、円安が止まらない「当然」の理由...関係者も見落とした「冷徹な市場のルール」

  • 4

    心を穏やかに保つ禅の教え 「世界が尊敬する日本人100…

  • 5

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 6

    ケイティ・ペリーの「尻がまる見え」ドレスに批判殺…

  • 7

    イランのイスラエル攻撃でアラブ諸国がまさかのイス…

  • 8

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    コロナ禍と東京五輪を挟んだ6年ぶりの訪問で、「新し…

  • 1

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 2

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 3

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた「身体改造」の実態...出土した「遺骨」で初の発見

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 6

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 7

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 8

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 9

    「毛むくじゃら乳首ブラ」「縫った女性器パンツ」の…

  • 10

    ダイヤモンドバックスの試合中、自席の前を横切る子…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこと」目からうろこの健康法

  • 4

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の…

  • 5

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 10

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中