最新記事

韓国

文在寅が「タマネギ男」の検察改革に固執する理由

The Unfinished Revolution

2019年9月17日(火)18時30分
浅川新介(ジャーナリスト)

優れた実務能力を持つ曺の法相就任を文は強行したが(9月9日) LEE JAE-WON-POOL/AFLO

<「疑惑の総合商社」曺国の法相就任を強行したのは、文在寅にとって「未完の民主化」の総仕上げだから>

娘の大学不正入学、奨学金不正受給、親族の不透明なファンド投資......。韓国版「疑惑の総合商社」とでも言うべき人物が文在寅(ムン・ジェイン)政権の法相になった。曺国(チョ・グク)だ。あまりにも疑惑が多く、付けられたあだ名が「タマネギ男」。むいてもむいても疑惑だらけ、という意味である。

「なぜそこまでするのか分からない」と韓国の全国紙記者をして言わしめるほど、文は任命に固執した。文がこの問題で妥協しなかったのは、曺の法相就任は自らに課した「検察改革」という大義名分を実現するため、避けて通ることのできない道だからだ。韓国の民主化運動に従事してきた人間が集まった「進歩(革新)」政権にとって運動は未完であり、検察は完全な民主化のために残された最後の汚点でもある。

時の権力にも立ち向かい、不正や疑惑があれば捜査し法と正義を貫く――検察にはそんなイメージがある。韓国の検察も、時には政権や政治家の不正疑惑を捜査・立件し、裁判を通じて責任を取らせてきた。2017年に韓国で公開された映画『1987、ある闘いの真実』は、軍事独裁体制だった全斗煥政権下の強圧的な警察捜査に1人で刃向かい、政権の暗部である拷問の実態が暴かれるきっかけをつくった検察官の姿を描いて話題になった。

しかし、このような検察官の存在は韓国社会では例外的だ。韓国では、検察だけが逮捕状請求と起訴・不起訴を行う権限を持ち、警察は捜査のみを行う。起訴して有罪にできるかどうかは検察次第なので、政治家など権力層の不正・腐敗が隠される余地が残る。このため、革新政権は改革によって恣意的な検察の権限行使を防ぐとともに、権力から中立的な検察組織の設立を目指してきた。

検察と権力の微妙な関係

文政権につながる革新政権には、これまで民主化という大きな山を越えてきたという自負がある。実際、1987年の民主化宣言以降も金大中(キム・デジュン)、盧武鉉(ノ・ムヒョン)といった革新政権を通して政治や軍、経済の民主化を進めてきた。

政治では大統領の直接選挙制を実現した。人事制度改革で軍の文民統制を強化し、かつてのようにクーデターで政治介入できないようにした。1997年のアジア金融危機で国庫減少という代償を払いながらも、経済活動に対する国家の恣意的・不当な介入はほぼ消えつつある。ただ、遅々として進まなかったのが検察改革だった。捜査・起訴という権力を持つ検察は革新政権に対して頑強な抵抗を続けてきた。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ビジネス

NY外為市場=ドル下落、米雇用悪化を警戒

ビジネス

米国株式市場=ダウ最高値更新、559ドル高 政府再

ビジネス

米経済、26年第1四半期までに3─4%成長に回復へ

ビジネス

米民間企業、10月は週1.1万人超の雇用削減=AD
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界最高の投手
特集:世界最高の投手
2025年11月18日号(11/11発売)

日本最高の投手がMLB最高の投手に──。全米が驚愕した山本由伸の投球と大谷・佐々木の活躍

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ギザのピラミッドにあると言われていた「失われた入口」がついに発見!? 中には一体何が?
  • 2
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評家たちのレビューは「一方に傾いている」
  • 3
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    ドジャースの「救世主」となったロハスの「渾身の一…
  • 6
    コロンビアに出現した「謎の球体」はUFOか? 地球外…
  • 7
    「流石にそっくり」...マイケル・ジャクソンを「実の…
  • 8
    冬ごもりを忘れたクマが来る――「穴持たず」が引き起…
  • 9
    【銘柄】エヌビディアとの提携発表で株価が急騰...か…
  • 10
    【クイズ】韓国でGoogleマップが機能しない「意外な…
  • 1
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 2
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 3
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 4
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評…
  • 5
    「座席に体が収まらない...」飛行機で嘆く「身長216c…
  • 6
    ドジャースの「救世主」となったロハスの「渾身の一…
  • 7
    「遺体は原型をとどめていなかった」 韓国に憧れた2…
  • 8
    筋肉を鍛えるのは「食事法」ではなく「規則」だった.…
  • 9
    「路上でセクハラ」...メキシコ・シェインバウム大統…
  • 10
    クマと遭遇したら何をすべきか――北海道80年の記録が…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 6
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 7
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 8
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 9
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
  • 10
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中