最新記事

情報セキュリティー

カザフスタン政府のネット監視からユーザーを守れ

2019年9月13日(金)17時00分
パオロ・ソルベッロ

トカエフ大統領の在任中もネット監視の試みはなくなりそうにない MUKHTAR KHOLDORBEKOV-REUTERS

<「証明書」をインストールさせて通信を傍受──懲りないカザフスタン政府vsIT大手の戦いの行方は>

グーグル、モジラ、アップルは8月下旬、それぞれのブラウザでカザフスタン政府による市民のネット利用への監視に対抗する措置を講じたと発表した。これで米ブラウザへの信頼回復は期待できるかもしれないが、カザフスタン政府によるネット監視への懸念は尽きない。

7月下旬、政府は国内のネットユーザーに政府発行の「ルート証明書」のインストールを迫った。証明書をインストールすれば、暗号化されているHTTPS通信が政府に傍受され、パスワードやクレジットカード情報や私的な交信内容など、ネットで入力・投稿したあらゆる情報を読み取られる恐れがある。

政府がルート証明書をネット統制に利用しようとするのは今回が初めてではない。2015年にも同様の試みが内外の反発に遭って中止されている。

地元メディアによると、証明書の発行元サイトの所有者は一個人。カザフスタンの秘密警察であるカザフスタン国家安全保安委員会(KNB)とのつながりが疑われている。

数週間後、KNBはこの証明書の発行中止を発表、政府機関をサイバー攻撃から守るシステムの「試行」だと釈明した。証明書は技術的には通信を傍受するための典型的な「中間者攻撃」で、国内のネットユーザーに対する実質的なセキュリティー侵害と言える。

モジラとグーグルは8月21日、それぞれのブラウザ(ファイアーフォックスとクローム)がカザフスタン当局の傍受を可能にする証明書をブロックすると発表。英語のほかロシア語とカザフ語でも人々に呼び掛けた。

アップルも自社のブラウザ、サファリで同様の対抗措置を講じた。カザフスタンの弁護士グループは、政府発行の証明書のインストールを利用者に強要した携帯電話事業者を訴えた。

ネット弾圧の予行演習か

検閲を監視する団体はカザフスタンのネットユーザーに、バーチャル・プライベートネットワーク(VPN)やトーア(Tor)のようなセキュリティーの高いプログラムを使うよう勧めている。

人権擁護団体フリーダム・ハウスによればカザフスタンは「自由な国ではない」。インターネット自由度スコアは100点中62点。アゼルバイジャンやジンバブエより低く、ロシアとトルコよりわずかにましな程度だ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

小泉防衛相、中国軍のレーダー照射を説明 豪国防相「

ワールド

米安保戦略、ロシアを「直接的な脅威」とせず クレム

ワールド

中国海軍、日本の主張は「事実と矛盾」 レーダー照射

ワールド

豪国防相と東シナ海や南シナ海について深刻な懸念共有
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:日本時代劇の挑戦
特集:日本時代劇の挑戦
2025年12月 9日号(12/ 2発売)

『七人の侍』『座頭市』『SHOGUN』......世界が愛した名作とメイド・イン・ジャパンの新時代劇『イクサガミ』の大志

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価に与える影響と、サンリオ自社株買いの狙い
  • 2
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 3
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」が追いつかなくなっている状態とは?
  • 4
    キャサリン妃を睨む「嫉妬の目」の主はメーガン妃...…
  • 5
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
  • 6
    ホテルの部屋に残っていた「嫌すぎる行為」の証拠...…
  • 7
    『ブレイキング・バッド』のスピンオフ映画『エルカ…
  • 8
    人生の忙しさの9割はムダ...ひろゆきが語る「休む勇…
  • 9
    仕事が捗る「充電の選び方」──Anker Primeの充電器、…
  • 10
    ビジネスの成功だけでなく、他者への支援を...パート…
  • 1
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 2
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価に与える影響と、サンリオ自社株買いの狙い
  • 3
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺るがす「ブラックウィドウ」とは?
  • 4
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 5
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%…
  • 6
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させ…
  • 7
    【クイズ】アルコール依存症の人の割合が「最も高い…
  • 8
    ホテルの部屋に残っていた「嫌すぎる行為」の証拠...…
  • 9
    人生の忙しさの9割はムダ...ひろゆきが語る「休む勇…
  • 10
    日本酒の蔵元として初の快挙...スコッチの改革に寄与…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 4
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 7
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 10
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中