最新記事
不法移民

米労働市場は不法就労が支える

Working in the Shadows

2019年9月12日(木)17時45分
アッシャー・ストックラー

アメリカの農業はメキシコなどからの不法移民なしでは成り立たない BENJAMIN LOWY/GETTY IMAGES

<非合法に滞在する労働者が摘発の恐怖に怯える一方、雇用主や大企業は責任追及を逃れている>

この夏、アメリカでは不法移民に対する風当たりが一段と強くなった。8月7日には移民関税執行局(ICE)がミシシッピ州の食肉加工工場7カ所を一斉捜索し、不法滞在の容疑で680人を拘束。この10年ほどでは最大規模の摘発だった。

親を拘束された子供たちがICE捜査官に泣いてすがる映像は多くの人の心を動かし、すぐに各方面から批判の声が上がった。さすがに300人ほどが暫定的に釈放されたが、それで済む話ではない。

この大量検挙であぶり出されたのは、工場や農場で不法滞在の労働者が重要な役割を果たしている事実。そして彼らが、たいていは表に出ないけれども、アメリカの労働市場全体にしっかりと組み込まれている現実だ。

しかも現場の労働者が当局の取り締まりに怯える一方で、彼らの労働から利益を得ている企業はおおむね責任の追及を免れてきた。情報公開法に基づき政府の活動を監視しているシラキュース大学取引記録アクセス情報センター(TRAC)が入手した司法省の記録によれば、雇用主が訴追されるケースは極めてまれだ。今年3月までの1年間で、故意に不法移民を雇った罪で訴追された雇用主は全7件でわずか11人。企業が訴追されたケースは一件もなかった。

しかし司法省は、訴追手続きには時間がかかるので、このデータだけで雇用主側に甘いと結論するのは不当だと反論する。「周知のとおりICEは2年前から、全国で何千もの事業主に対する監査や査察を開始している」と、司法省の報道官は言う。

企業の場合、不法移民の労働者を雇っただけでは法的責任を問われない。訴追するには「不法移民と知りながら雇った」という事実の証明が必要になる。

しかしたいていの場合、不法移民は身分証明や就労資格について雇用主に虚偽の書類を見せている。だから「知りながら」の証明は難しい。結果として、先に捕まるのは現場の不法就労者で、雇用主の責任追及は後回しになるわけだ。

地位が上なら裁かれない

移民問題で複数の企業の代理人を務める弁護士のアレン・オアによれば「一般論として、雇用主側には事前の捜索通知が来る。そこから先は書類のやりとりだ」。そして「当局は就労資格の疑わしいケースを雇用主に指摘し、雇用主は当該人物を解雇する。『知りながら』雇用し続ければ多額の民事制裁金を科される」。

移民関連の法律に違反した雇用主を処罰する手段として、このところ政府は民事制裁金がお気に入りのようだ。議会調査局の報告によれば、ICEが雇用主に民事制裁金を科した件数は2009〜14年の間に12倍になり、2014年に徴収された制裁金は総額1627万ドルに上る。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

日経平均は反発、景気敏感株がしっかり TOPIX最

ビジネス

オリックス、純利益予想を上方修正 再エネの持ち分会

ビジネス

オリックス、自社株取得枠の上限を1500億円に引き

ワールド

台湾有事巡る発言は悪質、中国国営メディアが高市首相
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:世界最高の投手
特集:世界最高の投手
2025年11月18日号(11/11発売)

日本最高の投手がMLB最高の投手に──。全米が驚愕した山本由伸の投球と大谷・佐々木の活躍

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ギザのピラミッドにあると言われていた「失われた入口」がついに発見!? 中には一体何が?
  • 2
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評家たちのレビューは「一方に傾いている」
  • 3
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    コロンビアに出現した「謎の球体」はUFOか? 地球外…
  • 6
    「流石にそっくり」...マイケル・ジャクソンを「実の…
  • 7
    ドジャースの「救世主」となったロハスの「渾身の一…
  • 8
    冬ごもりを忘れたクマが来る――「穴持たず」が引き起…
  • 9
    【銘柄】エヌビディアとの提携発表で株価が急騰...か…
  • 10
    「イケメンすぎる」...飲酒運転で捕まった男性の「逮…
  • 1
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 2
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 3
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 4
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評…
  • 5
    「座席に体が収まらない...」飛行機で嘆く「身長216c…
  • 6
    ドジャースの「救世主」となったロハスの「渾身の一…
  • 7
    「遺体は原型をとどめていなかった」 韓国に憧れた2…
  • 8
    筋肉を鍛えるのは「食事法」ではなく「規則」だった.…
  • 9
    「路上でセクハラ」...メキシコ・シェインバウム大統…
  • 10
    クマと遭遇したら何をすべきか――北海道80年の記録が…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 6
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 7
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 8
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 9
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
  • 10
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中