最新記事

香港

「こっちの水は甘いぞ!」――深センモデル地区再指定により香港懐柔

2019年8月20日(火)18時03分
遠藤誉(中国問題グローバル研究所所長)

香港青年の言葉にある「このような優遇措置」とは、「意見」の中に書いてある「深センで働き生活をする香港マカオの居住民たちに深センの市民権を与える」という一文を指している。

これではまるで、「香港を捨てよ」と呼び掛けているようなものだ。

こっちの水は「アーマイ」ぞ!――香港を骨抜きにして「一国二制度」を完遂

それ以外にも「意見」では

(1)深センに国家科学センターを設立して、「5G、AI、IT、バイオ」などのハイテク研究室の設立を支援する。

(2)深センにおける国有企業を改革し、自由貿易区域を設置する。

(3)憲法や法律および行政法規などを順守するという前提のもとに、イノベーション改革実践のニーズに応じて、深セン独自の法律、行政法規あるいは地方性法規の制定の自由を一定程度認める。

というのがある。明示的に書かれてはいないが、おそらく深センにおいては土地所有の申請に関しても簡素化され、さらに「東莞市」を最終的に深セン市に組み込む可能性さえ考えられる。

実は香港の発展を制限している重要な原因の一つに土地が狭いという問題がある。香港市民は日常生活においても道が狭くて交通渋滞に悩まされている。香港と深センが一体化され土地問題が解消されるというのなら、土地の狭さに悩まされている香港市民の心は動くにちがいない。結果、香港市民が深センに移住して市民権を得て恩恵を受ける道を選ぶかもしれないと、北京は計算しているのである。

「こっちの水はアーマイぞ!」と香港市民を誘い込んでいるようなものだ。こうして次々に深セン市民となってしまえば、香港は骨抜きになり、「一国二制度」は北京の思うままになるという計算だ。

この「意見」は、今後粤港澳大湾区の中心が深センとなり、今までのように香港に資源を注ぎ込むことがなくなるという政策でもある。 

その線で考えると、深センが直轄市に昇格する可能性も否定できない。

習近平は同時に、米中攻防における対抗馬を打ち出してきたということもできる(これに関しては別途考察する)。

以上が「意見」の持っている真の意味である。

(なお本稿は中国問題グローバル研究所のウェブサイトからの転載である。)

この筆者の記事一覧はこちら≫

endo2025.jpg[執筆者]遠藤 誉
中国問題グローバル研究所所長、筑波大学名誉教授、理学博士
1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。中国問題グローバル研究所所長。筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会学研究所客員研究員・教授などを歴任。著書に『「中国製造2025」の衝撃 習近平はいま何を目論んでいるのか』、『毛沢東 日本軍と共謀した男』、『卡子(チャーズ) 中国建国の残火』、『チャイナ・セブン <紅い皇帝>習近平』、『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』、『チャイナ・ジャッジ 毛沢東になれなかった男』、『中国動漫新人類 日本のアニメと漫画が中国を動かす』『中国がシリコンバレーとつながるとき』など多数。


今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米新規失業保険申請、9000件減の20.2万件 一

ビジネス

FRBのバランスシート、縮小へ複数の道筋ある=米ダ

ワールド

イランの革命防衛隊、バーレーンの米アマゾン施設攻撃

ワールド

イラン、ホルムズ海峡の航行監視でオマーンと協定文書
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:日本企業に迫る サステナビリティ新基準
特集:日本企業に迫る サステナビリティ新基準
2026年4月 7日号(3/31発売)

国際基準の情報開示や多様な認証制度──本当の「持続可能性」が問われる時代へ

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    なぜイスラエルは対イラン戦争を支持するのか...「イラン恐怖」の正体
  • 2
    年金は何歳からもらうのが得? 男女で違う「最適な受給年齢」
  • 3
    破産申請の理由の4割以上が「関税コスト」...トランプ関税が米国民に与える「破産」の苦しみ
  • 4
    人口減の自治体を救う「小さな浄水場」──誰もが常に…
  • 5
    先進国が出生数の減少を嘆く必要はない? 「経済的…
  • 6
    日本の男女の賃金格差は世界でも突出して大きい
  • 7
    「一般市民に敵意なし」...イラン大統領が米国民宛て…
  • 8
    攻撃開始日も知っていた?──イラン戦争を巡る巨額取引…
  • 9
    自国の国旗損壊を罪に問うことの深刻さを考える
  • 10
    血圧やコレステロール値より重要?死亡リスクを予測…
  • 1
    「根底にあるのは怒り」...日本の「3Dプリンター住宅」企業が救う、ウクライナの未来
  • 2
    「水に流す」日本と「記憶する」韓国...気候と地理が育んだ「国民意識の違い」とは?
  • 3
    ヘンリー・メーガン夫妻の豪州訪問に3万6000人超の反対署名...「歓迎してない」の声広がる
  • 4
    記憶を定着させるのに年齢は関係ない...記憶の定着度…
  • 5
    ロシア経済を支える重要な港、ウクライナのものと思…
  • 6
    攻撃開始日も知っていた?──イラン戦争を巡る巨額取引…
  • 7
    映画『8番出口』はアメリカでどう受け止められた?..…
  • 8
    中国最大の海運会社COSCOがペルシャ湾輸送を再開──緊…
  • 9
    なぜイスラエルは対イラン戦争を支持するのか...「イ…
  • 10
    オランウータンに「15分間ロックオン」された女性のS…
  • 1
    温暖化で増えた? サンマやサケ減少の裏で激増する「安価で栄養価の高い魚」の正体
  • 2
    ロシア政府、痛恨のミス...プーチンの「健康不安説」を裏付けるような動画を公式に投稿してしまう
  • 3
    メーガン妃、娘リリベット王女との新ショット公開...撮影はパパ
  • 4
    「根底にあるのは怒り」...日本の「3Dプリンター住宅…
  • 5
    「ノーと言えるスペイン」の背景に国防意識...次期ス…
  • 6
    キャサリン皇太子妃、ナイジェリア大統領夫妻出迎え…
  • 7
    数時間以内に死に至ることも...若者の間で集団感染が…
  • 8
    「日本より、自分の国(フランス)を心配すれば?」…
  • 9
    米軍も防ぎきれないイランのドローン攻撃──イラン製…
  • 10
    メーガン妃、娘リリベット王女との「お手伝い姿」公…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中