最新記事

中国

太平洋諸国で存在感を強める中国 米国は「肉食獣の経済力」を懸念

2019年8月13日(火)17時30分

8月7日、サモアのサバイー島で、中国が新たな港湾の建設を検討しているという。写真は7月、日本の支援で拡充されたアピア港で荷揚げするコンテナ船(2019年 ロイター/Jonathan Barrett)

日が昇る前の早朝、潮が引いたサモアのサバイー島では、米国が作った古い滑走路の残骸が姿を現す。何十年もの間、浸食やサイクロン、津波にさらされていたものだ。

この第2次世界大戦の遺構があるアサウ地区には、1960年代に作られたコンクリート製の波止場もあり、天然の入り江に守られている。サモア政府と、地区の首長を務めるマソエ・セロタ・トゥファガ氏(71)によると、この地で中国が新たな港湾の建設を検討しているという。

有事に軍事施設として利用できるこの港湾建設計画は、1945年以降、広大な海洋支配を独占してきた米国、そして地域の同盟国の懸念を呼んでいる。

自身が保有するココナツとカカオの農園で取材に答えたトゥファガ氏は、中国の影響力が拡大することは懸念しているものの、政府が中国と港湾建設に合意すればそれに従うと話した。

「政府と中国はこの場所を視察に来て、提案をしてきた」と、アサウ地区の土地利用について最終的な決定権を持つトゥファガ氏は言う。

「中国がこの土地を使いたいと言うなら、我々が政府に対してノーと言うのは難しい。職を探してる人が多いんだ。そうだ、結局はカネだよ」

日本からの投資

米国と、その同盟国である日本やオーストラリア、ニュージーランドは、中国の影響力に対抗するため太平洋地域に配置する外交官の人員を拡充している。そして太平洋の島しょ国に対し、中国政府が資金提供するプロジェクトは、財政的に合理的なものでなければならないと警告している。

エスパー米国防長官は4日、訪問先のシドニーで、中国が「肉食獣の経済力」を用いてインド・太平洋地域を不安定化させていると批判し、米国はパートナーと共に、地域の緊急性のある安全保障上のニーズに対応していくと述べた。

ロイターはこの記事を書くに当たり中国外務省にコメントを求めたが、直接的な回答はなかった。ただ、中国による支援は、太平洋地域で歓迎されていると過去に説明した。習近平・国家首席は昨年開かれた地域フォーラムで、中国からの借款は「罠」ではないと語っている。

太平洋の島国は陸地面積こそごくわずかだが、広大で資源豊富な排他的経済水域を持ち、アメリカとアジアの境界になっている。

第2次世界大戦では、米国を始めとする連合国が南太平洋における重要な戦いで日本軍に勝利し、形勢を逆転させた。

また、太平洋諸国は国連などの国際会議でそれぞれ1票を持っている。台湾の主権を認める国の3分の1は、この地域にある。

アサウ地区や、もう1つ別のプロジェクトの候補地に挙がっているバイウス湾に中国資本の開発が入れば、世界最大のこの海で、港湾開発競争を引き起こしかねない。

日本は、サモア唯一の商業港であるアピア港の整備に数十億円を投じたほか、埠頭(ふとう)と商業地区を結ぶ橋を建設している。

在サモア日本大使館の貴志功参事官は、日本は平和と安定のため、アピア湾の整備も含めて太平洋地域に貢献していると話し、地域秩序の維持に大きな関心を持っている、と付け加えた。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

テスラ株「途方もなく過大評価」と投資家バリー氏、ブ

ワールド

ホンジュラス大統領選、「台湾と復交」支持の野党2候

ビジネス

インド経常赤字、7─9月GDP比1.3%に低下 輸

ビジネス

イーライリリー、米で肥満症薬「ゼップバウンド」の価
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:日本時代劇の挑戦
特集:日本時代劇の挑戦
2025年12月 9日号(12/ 2発売)

『七人の侍』『座頭市』『SHOGUN』......世界が愛した名作とメイド・イン・ジャパンの新時代劇『イクサガミ』の大志

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「世界一幸せな国」フィンランドの今...ノキアの携帯終了、戦争で観光業打撃、福祉費用が削減へ
  • 2
    【クイズ】1位は北海道で圧倒的...日本で2番目に「カニの漁獲量」が多い県は?
  • 3
    【クイズ】次のうち、マウスウォッシュと同じ効果のある「食べ物」はどれ?
  • 4
    【銘柄】関電工、きんでんが上昇トレンド一直線...業…
  • 5
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙す…
  • 6
    中国の「かんしゃく外交」に日本は屈するな──冷静に…
  • 7
    【最先端戦闘機】ミラージュ、F16、グリペン、ラファ…
  • 8
    600人超死亡、400万人超が被災...東南アジアの豪雨の…
  • 9
    メーガン妃の写真が「ダイアナ妃のコスプレ」だと批…
  • 10
    コンセントが足りない!...パナソニックが「四隅配置…
  • 1
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで墜落事故、浮き彫りになるインド空軍の課題
  • 2
    【最先端戦闘機】ミラージュ、F16、グリペン、ラファール勢ぞろい ウクライナ空軍は戦闘機の「見本市」状態
  • 3
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙すぎた...「心配すべき?」と母親がネットで相談
  • 4
    100年以上宇宙最大の謎だった「ダークマター」の正体…
  • 5
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 6
    【クイズ】次のうち、マウスウォッシュと同じ効果の…
  • 7
    128人死亡、200人以上行方不明...香港最悪の火災現場…
  • 8
    【寝耳に水】ヘンリー王子&メーガン妃が「大焦り」…
  • 9
    【銘柄】関電工、きんでんが上昇トレンド一直線...業…
  • 10
    子どもより高齢者を優遇する政府...世代間格差は5倍…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 3
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 6
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 7
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 8
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 9
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 10
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中