最新記事

南シナ海

中国が南シナ海で対艦弾道ミサイル発射実験 狙いは米軍

China Test Fires Anti-Ship Missile In Disputed South China Sea

2019年7月5日(金)13時20分
ナンディカ・チャンド

南シナ海で中国が発射実験したとみられる対艦弾道ミサイル「東風21」 Damir Sagolj-REUTERS

<南シナ海で、米艦を想定したミサイル事件を中国が行うのは初めて。狙いは何なのか>

中国が南シナ海で対艦ミサイルの発射実験を行ったことを受けて、アメリカは中国を強く非難した。米国防総省は、南シナ海で中国がいまだに軍事拠点化を進めていることを厳しく批判した。

国防総省のデイブ・イーストバーン報道官は公式声明を発表し、中国が南シナ海のスプラトリー(南沙)諸島の人工構造物からミサイルを発射したことについて、国防総省は当然把握していたと述べた。イーストバーンは、今回の一件は、中国の習近平国家主席が2015年の訪米時に、ホワイトハウスの式典で述べたことと完全に矛盾する行動だとも説明した。「習近平はアメリカ、アジア太平洋地域と世界に対して、こうした人工構造物を軍事拠点化する意図はない、と言明していた」という。

週末にかけて、中国は海軍陸戦隊(海兵隊)に対して、南シナ海のスプラトリー諸島周辺で7月3日にかけて軍事演習を実施すると通知していた。ある米当局者は、中国が同海域で対艦弾道ミサイルの発射実験を実施し、少なくとも1発を発射したことを確認した。このミサイルについては複数の有識者が、射程距離が1500キロで「空母キラー」の異名を持つ「東風(DF)21」の可能性があると指摘している。

<参考記事>南シナ海人工島に中国の「街」出現 周辺国の心配よそに軍事拠点化へ

「航行の自由」作戦を想定か

今回の発射実験は、同海域で定期的に「航行の自由」作戦を展開しているアメリカの駆逐艦や、無敵と言われる空母までも標的にしたものとみられている。5月6日には、米ミサイル駆逐艦「プレブル」と「チャン・フー」の2隻が南シナ海のガベン(南薫)礁とジョンソン南(赤瓜)礁の12海里(約22キロ)内を航行したばかり。

香港のサウスチャイナ・モーニングポスト紙によれば、アナリストたちは、中国政府がアメリカと次の貿易交渉を始めるのに先立ち、軍事力を誇示することで交渉力の強化を狙ったと指摘している。上海在住の軍事専門家である倪楽雄、今回のミサイル発射実験は中国の「戦術」だと語った。

中国は長年、南シナ海は自国の領土だとして領有権を主張している。だが同紙によれば、中国が「九段線」と呼ぶ領海線は断続する破線からなる曖昧なもので、領有権の主張に確たる根拠はないという。2016年には、フィリピンが国連海洋条約違反で中国を提訴した仲裁裁判で、オランダ・ハーグの仲裁裁判所が九段線内の領有権主張に国際法上の根拠はないとの判断を下している。

シンガポールのシンクタンク「ユソフ・イサーク研究所」のイアン・J・ストーリー上級研究員は、もしも中国が九段線を構成する9本の破線をつないで一本の領海線を描き、南シナ海の領有権を主張すれば、それは2016年7月の仲裁裁判所の判断を完全に否定することになると指摘。そうなれば東南アジア諸国のみならず他の国々の政府にとっても大きな懸念材料となるし、アメリカとの睨み合いも一層先鋭化するだろう。

(翻訳:森美歩)

<参考記事>中国は「第三次大戦を準備している」

cover0709.jpg
※7月9日号(7月2日発売)は「CIAに学ぶビジネス交渉術」特集。CIA工作員の武器である人心掌握術を活用して仕事を成功させる7つの秘訣とは? 他に、国別ビジネス攻略ガイド、ビジネス交渉に使える英語表現事例集も。


ニューズウィーク日本版 世界最高の投手
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年11月18日号(11月11日発売)は「世界最高の投手」特集。[保存版]日本最高の投手がMLB最高の投手に―― 全米が驚愕した山本由伸の投球と大谷・佐々木の2025年

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米政権文書、アリババが中国軍に技術協力と指摘=FT

ビジネス

エヌビディア決算にハイテク株の手掛かり求める展開に

ビジネス

トランプ氏、8月下旬から少なくとも8200万ドルの

ビジネス

クーグラー元FRB理事、辞任前に倫理規定に抵触する
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界最高の投手
特集:世界最高の投手
2025年11月18日号(11/11発売)

日本最高の投手がMLB最高の投手に──。全米が驚愕した山本由伸の投球と大谷・佐々木の活躍

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 2
    筋肉の正体は「ホルモン」だった...テストステロン濃度を増やす「6つのルール」とは?
  • 3
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生まれた「全く異なる」2つの投資機会とは?
  • 4
    ヒトの脳に似た構造を持つ「全身が脳」の海洋生物...…
  • 5
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 6
    「不衛生すぎる」...「ありえない服装」でスタバ休憩…
  • 7
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前…
  • 8
    「イケメンすぎる」...飲酒運転で捕まった男性の「逮…
  • 9
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 10
    「腫れ上がっている」「静脈が浮き...」 プーチンの…
  • 1
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 2
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 3
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前に、男性が取った「まさかの行動」にSNS爆笑
  • 4
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評…
  • 5
    ドジャースの「救世主」となったロハスの「渾身の一…
  • 6
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 7
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 8
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 9
    「イケメンすぎる」...飲酒運転で捕まった男性の「逮…
  • 10
    筋肉の正体は「ホルモン」だった...テストステロン濃…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 7
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 10
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中