最新記事

中米移民

米国境で溺死のエルサルバドル父娘 写真拡散は悲惨な移民たちを救えるか?

2019年7月2日(火)17時50分

6月26日、メキシコと米国の国境を流れるリオグランデ川で米国に不法入国を試みて溺死したエルサルバドル人父娘の悲惨な写真が公開され、トランプ米大統領の移民政策を巡る政治的論議を巻き起こしている。写真はリオグランデ川(2019年 ロイター/Loren Elliott)

メキシコと米国の国境を流れるリオグランデ川で米国に不法入国を試みて溺死したエルサルバドル人父娘の悲惨な写真が公開され、トランプ米大統領の移民政策を巡る政治的論議を巻き起こしている。

エルサルバドルを脱出した25歳のオスカル・アルベルト・マルティネスさんと、2歳になったばかりのアンジー・バレリアちゃんは、米国での亡命申請を願っていた。父娘がうつぶせになって浅瀬で浮かんでいる写真が公開されると、中米諸国からの難民・移民の窮状に改めて注目が集まった。

2020年米大統領選における民主党候補指名争いに名乗りをあげているバーニー・サンダース上院議員は、この写真について「非常に痛ましい」と述べ、トランプ大統領による移民弾圧がこのような死を招いたと批判した。

「亡命申請をますます困難にするだけでなく、申請した家族を分断するトランプ政策は、残酷で無慈悲であり、こうした悲劇を招いている」とサンダース氏はツイッターに投稿した。

一方のトランプ大統領は、移民の亡命を促している法律の「抜け穴」をふさごうとする米政府の努力を、民主党員が妨害している、と反撃した。

「彼らが法律を修正していれば、こんなことにはならなかった。押し寄せた人々はリオグランデ川を通り抜けている」「人がどんどん来ないよう、簡単に修正できる。そうすれば人々が死ぬこともない」とトランプ氏は報道陣に語った。

トランプ政権による不法移民の取り締まり策にもかかわらず、今年中米諸国から米国に達する移民数は史上最多となる見込みだ。その多くは貧困、干ばつ、主にギャングによる犯罪的暴力などから逃れようとする人々だ。

米国の国境警備当局は、今年既に66万4000人をメキシコ側の国境沿いで拘束。これは去年と比べて144%の増加だと国境警備当局のブライアン・ヘイスティングス氏は語る。「システムはパンク状態だ」と同氏は語った。

移民が死亡する事態も珍しいことではなく、犯罪者による暴行の被害に遭ったり、不安定なリオグランデ川の流れや、砂漠の暑さに倒れたりすることもある。

国境警備隊によれば、2018年に対メキシコ国境で死亡した移民は283人。人権活動家は、全長3138キロの国境沿いにある荒野などで死亡した移民は発見されないため、実際の数字はもっと多いと主張している。

押し寄せる移民に対処するため、米政府はここ数年、「メータリング(制御)」と呼ばれる制度を導入。これにより、通関手続き地点で1日に処理できる人数に上限が設けられ、順番を待つ人々が国境付近の危険な町で数週間以上過ごすこととなった。

その結果、多くの移民たちが不法に国境を越え、米国で自らを当局者に引き渡して、亡命申請しようとしている。亡命申請に向けたアクセスが制限されたことで、移民は地下ルートなど別のルートを探ることを余儀なくされ、危険な状況に追い込まれている、と移民の人権を訴える活動家は警鐘を鳴らす。

メキシコ・タマウリパス州移民管理局のエンリケ・マシエル氏によると、写真に写っているマルティネスさん一家は、メキシコのマタモロスと米ブラウンズビルの間にある通関手続地で順番待ち名簿に登録しないとならないと伝えられた後、川を渡ることを決断したという。

川岸の泥の中に突っ伏したマルティネスさんと、父親の首に力なく腕をかけた幼い娘の写真は、ソーシャルメディアで世界中に共有された。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米肥満薬開発メッツェラ、ファイザーの100億ドル買

ワールド

米最高裁、「フードスタンプ」全額支給命令を一時差し

ワールド

アングル:国連気候会議30年、地球温暖化対策は道半

ワールド

ポートランド州兵派遣は違法、米連邦地裁が判断 政権
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:高市早苗研究
特集:高市早苗研究
2025年11月 4日/2025年11月11日号(10/28発売)

課題だらけの日本の政治・経済・外交を初の女性首相はこう変える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 2
    「遺体は原型をとどめていなかった」 韓国に憧れた2人の若者...最悪の勘違いと、残酷すぎた結末
  • 3
    「路上でセクハラ」...メキシコ・シェインバウム大統領にキスを迫る男性を捉えた「衝撃映像」に広がる波紋
  • 4
    「座席に体が収まらない...」飛行機で嘆く「身長216c…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    クマと遭遇したら何をすべきか――北海道80年の記録が…
  • 7
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評…
  • 8
    【銘柄】元・東芝のキオクシアHD...生成AIで急上昇し…
  • 9
    なぜユダヤ系住民の約半数まで、マムダニ氏を支持し…
  • 10
    長時間フライトでこれは地獄...前に座る女性の「あり…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 3
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 4
    9歳女児が行方不明...失踪直前、防犯カメラに映った…
  • 5
    「日本のあの観光地」が世界2位...エクスペディア「…
  • 6
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 7
    だまされやすい詐欺メールTOP3を専門家が解説
  • 8
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 9
    「遺体は原型をとどめていなかった」 韓国に憧れた2…
  • 10
    虹に「極限まで近づく」とどう見える?...小型機パイ…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 6
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になり…
  • 7
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 8
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 9
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 10
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中