最新記事

中国

米中貿易戦争の激化で米中合作ドラマも中止

U.S. Actors Feeling the Threat

2019年6月1日(土)15時00分
ロバート・フォイル・ハンウィック(メディアコンサルタント)

米中合作映画『グレートウォール』(16年)の北京でのプレミア上映に出席した香港の俳優アンディ・ラウ。この時中国市場とハリウッドは蜜月だったが Jason Lee-REUTERS

<在中アメリカ人俳優が相次ぎ失職――ハリウッド映画が中国市場から排除される?>

中国でアメリカン・ドリームをつかむ夢は、やはりかなわなかった。5月半ば、超豪華ホテルのグランドハイアット北京では新作ドラマ『父を連れて留学へ(Over the Sea I Come to You)』の記者会見が開かれていた。

中国人留学生を主人公に、潤沢な予算を使ってアメリカで撮影され、ベテラン俳優・孫紅雷(スン・ホンレイ)を起用、アメリカ人俳優も多数出演した意欲作だ。チープな作品が多い中国のテレビ界では画期的な作品になるはずで、運よくネットフリックスなどで全世界に配信されれば、出演者たちの注目度も上がるはずだった。

だが会見から3日後、初回の放送を前に突然放送中止が発表された。米中貿易戦争のしわ寄せが、こんなところまで及んだのだ。このままだと、世界最大市場の中国で大いに稼がせてもらおうというハリウッドの夢はもちろん、多くの中国系アメリカ人が抱くバラ色の夢も、はかなく消えかねない。

それなりの若さとまずまずのルックス、そして最低限の演技力と大きな野心さえあれば、中国系アメリカ人が中国のテレビや映画の世界で役者やモデルの仕事にありつくのは難しくなかった。しかしそんな時代は、少なくとも米中貿易戦争が続いている限り、もう終わりなのかもしれない。

匿名で取材に応じた男性は、自分やアメリカ生まれの俳優にはもう仕事を紹介できないとエージェントから言われたと明かした。今回のドラマに似た作品を中国国内で撮影していた別のスタッフも同時期に、今後はアメリカ国籍の人間をキャスティングできないと言われ、脚本を急きょ書き直すことになったと教えてくれた。

テレビ局も当局恐れ自粛

消息筋によると、今のところ、アメリカ国籍者をキャスティングしてはならないという中国当局の通達は出ていない。しかしテレビ局のお偉方は自粛する。安易にアメリカ人を起用することで今後、自分たちの身に降り掛かるかもしれない事態を恐れるからだ。

中国は昔から、国有企業や関連企業の従業員を動員し、領土問題でもめているベトナムやフィリピンなどへの抗議行動を起こさせたり、テレビ局に反日戦争番組の放送を強要したり、中国政府が大義に反すると見なす外国製品の不買運動や外国企業の排斥をあおってきたりした。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米貿易赤字、3月は0.1%減の694億ドル 輸出入

ワールド

ウクライナ戦争すぐに終結の公算小さい=米国家情報長

ワールド

ロシア、北朝鮮に石油精製品を輸出 制裁違反の規模か

ワールド

OPECプラス、減産延長の可能性 正式協議はまだ=
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国の研究チームが開発した「第3のダイヤモンド合成法」の意義とは?

  • 2

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロシア空軍基地の被害規模

  • 3

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 4

    「500万ドルの最新鋭レーダー」を爆破...劇的瞬間を…

  • 5

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉…

  • 6

    ロシア軍の拠点に、ウクライナ軍FPVドローンが突入..…

  • 7

    「複雑で自由で多様」...日本アニメがこれからも世界…

  • 8

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 9

    中国のコモディティ爆買い続く、 最終兵器「人民元切…

  • 10

    「みっともない!」 中東を訪問したプーチンとドイツ…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 5

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 6

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 7

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロ…

  • 8

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 9

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を…

  • 10

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 6

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 7

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 10

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中