最新記事

シリア情勢

シリアのイドリブ県で戦闘が激化するなか、政府軍が再び化学兵器攻撃か?

2019年5月22日(水)19時30分
青山弘之(東京外国語大学教授)

戦闘が激化するシリアのイドリブ県 ARAB24/Reuters TV

<シリア軍が化学兵器を使用したと報じられたが、その狙いは何だったのか。シリアで使用される化学兵器は、軍事的効果以上に政治的効果を狙ったものであることだけは明らかだ......>

シリア北部のラタキア県で5月19日、シリア軍が化学兵器を使用したと報じられた。新たな攻撃が行われたとされるのは、イドリブ県との県境に位置するクルド山地方カッバーナ村のクバイナ丘で、攻撃に使用された砲弾3発には塩素と思われる有毒物質が装填されていたという。

第一報を伝えたイバー・ネットとは?

ニュースはイバー・ネットを名のるサイトが配信し、反体制系のメディアと活動家がネット上で拡散した。

aoyama0522a.jpgEbaa.news, May 19, 2019

ベルギーに拠点を置き、シリア軍の化学兵器使用を追及してきた反体制系NGOの化学兵器違反記録センター(CVDCS)も、複数の目撃者や医師の証言として、砲弾が爆発した直後に黄色の煙が上がり、少なくとも4人が目の充血や呼吸困難といった症状を訴えたとする報告書を発表した。

このうち、イバー・ネットはシャーム解放機構に近いとされるサイトである。このシャーム解放機構が何者かについては、シリア内戦への関心がすっかり低下するなかで、忘れられてしまっているかもしれない(あるいは、そもそもその存在さえ知られていないかもしれない)。だが、彼らこそがシャームの民のヌスラ戦線、すなわちシリアのアル=カーイダの後身組織だ。

シャーム解放機構はテロ組織か?

ヌスラ戦線はそもそもはイラクのアル=カーイダであるイラク・イスラーム国のフロント組織として活動を開始した。2013年4月に彼らと袂を分かったイラク・イスラーム国が、イラク・シャーム・イスラーム国(ISIS、ISIL、2013年4月)、さらにはイスラーム国(2014年6月)に名を変え、アル=カーイダから破門(2014年2月)を言い渡されたのとは対象的に、ヌスラ戦線は当初、アル=カーイダに忠誠を誓い続けることで存在を誇示しようとした。

だが2016年7月、いわゆる自由シリア軍諸派との共闘を強め、劣勢を打開するためにアル=カーイダとの絶縁を宣言、組織名をシャーム・ファトフ戦線に変更した。さらに2017年1月には、バラク・オバマ前米政権の支援を受けていた「穏健な反体制派」と糾合し、現在の組織名、すなわちシャーム解放機構を名のるようになった。

シャーム解放機構を国際テロ組織アル=カーイダとみなすことについては賛否両論がある。オバマ前政権は2012年12月に、ヌスラ戦線をFTO(外国テロ組織)に指定、国連も2013年5月にアル=カーイダ制裁委員会リストに追加登録した(いずれも当初はアル=カーイダの別名として登録)。

だが、欧米諸国が長らく「シリア国民の唯一の正統な代表」とみなしていたシリア国民連合(連立)をはじめとする反体制派のなかには、「もっとも成功した反体制派」(The Washington Post, November 30, 2012)だったヌスラ戦線をテロ組織とみなすことに異議を唱える者が少なくなかった。

シャーム解放機構は、名称変更後もしばらくはテロ指定を免れた。だが、米国務省は2018年5月、シャーム解放機構をFTO、SDGT(特別指定グローバルテロ組織)に指定(ヌスラ戦線の別名として登録)、トルコも同年9月に彼らをテロ組織とみなす政令を施行した。国連のアル=カーイダ制裁委員会リストにも、シャーム解放機構はヌスラ戦線の別名として登録されている。

社会通念上、そして国際法上、シャーム解放機構はアル=カーイダで、国際テロ組織とみなし得ると断言してよいだろう。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ビジネス

アドバンテスト、第三者が不正アクセス ランサムウエ

ワールド

米がイラン再攻撃なら深刻な結果、ロシア外相が自制呼

ビジネス

英小売業、「雇用権利法」で労働コスト増大懸念強める

ワールド

対ロ制裁強化へ新たな法案推進、ウクライナ訪問中の米
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ウクライナ戦争4年 苦境のロシア
特集:ウクライナ戦争4年 苦境のロシア
2026年2月24日号(2/17発売)

帰還兵の暴力、ドローンの攻撃、止まらないインフレ。国民は疲弊しプーチンの足元も揺らぐ

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ポーランドが「核武装」に意欲、NATO諸国も米国の核の傘を信用できず
  • 2
    完全に「ホクロ」かと...医師も見逃した「皮膚がん」の写真がSNSで話題に、見分け方「ABCDEルール」とは?
  • 3
    ウクライナ戦争が180度変えた「軍事戦略」の在り方...勝利のカギは「精密大量攻撃」に
  • 4
    生き返ったワグネルの「影」、NATO内部に浸透か
  • 5
    「ヒンメルならそうした」...コスプレイヤーが消火活…
  • 6
    「ヘル・コリア」から日本へ7万人 ── 大企業の高給より…
  • 7
    川崎が「次世代都市モデルの世界的ベンチマーク」に─…
  • 8
    なぜ「あと1レップ」が筋肉を壊すのか...「高速パワ…
  • 9
    中道「大敗北」、最大の原因は「高市ブーム」ではな…
  • 10
    【銘柄】マイクロソフトの株価が暴落...「AI懸念」で…
  • 1
    台湾侵攻「失敗」の大きすぎる代償
  • 2
    ウクライナ戦闘機「F-16」がロシア軍「シャヘド」を空中爆破...地上から撮影の「レア映像」を公開
  • 3
    「罠に嵌められた」と主張するが...欧州で次々と摘発される中国のスパイ、今度はギリシャで御用
  • 4
    【銘柄】マイクロソフトの株価が暴落...「AI懸念」で…
  • 5
    「ヒンメルならそうした」...コスプレイヤーが消火活…
  • 6
    なぜ「あと1レップ」が筋肉を壊すのか...「高速パワ…
  • 7
    中国、パナマ運河の港湾喪失でパナマに報復──トラン…
  • 8
    「目のやり場に困る...」アカデミー会場を席巻したス…
  • 9
    オートミール中心の食事がメタボ解消の特効薬に
  • 10
    「最恐」恐竜T・レックスの定説を覆す新研究が
  • 1
    【クイズ】致死率50~75%...インドで感染拡大「ニパウイルス」の感染源となる動物は?
  • 2
    ウクライナ戦闘機「F-16」がロシア軍「シャヘド」を空中爆破...地上から撮影の「レア映像」を公開
  • 3
    高市積極財政にアメリカが慌てる理由
  • 4
    セーターが消えた冬 ── 暖かさの主戦場が「インナー」…
  • 5
    台湾侵攻「失敗」の大きすぎる代償
  • 6
    「最恐」恐竜T・レックスの定説を覆す新研究が
  • 7
    イースター島の先住民から資源を略奪、島を「生きた…
  • 8
    海上自衛隊が水中無人機(UUV)を導入 中国の海軍拡…
  • 9
    中国、パナマ運河の港湾喪失でパナマに報復──トラン…
  • 10
    「罠に嵌められた」と主張するが...欧州で次々と摘発…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中