最新記事

資本主義

「ハゲタカファンドは人さえ殺している」ジグレール教授の経済講義

2019年3月9日(土)11時30分
ニューズウィーク日本版ウェブ編集部

boggy22-iStock.

<資本主義とは何か。格差の現実をどう理解すべきか。今こそ知るべきこれらのテーマについて、スイスの政治家であり社会学者ジャン・ジグレールが平易に解説する(シリーズ第3回)>

グローバル化が進む中、「格差」や「貧困」が大きな問題として取り上げられることが増えてきた。「世界人口の約半数と同じ富がわずか26人の富裕層に集中している」(国際慈善団体オックスファムの最新のレポート)といった格差の「現実」が報道されるたび、激しい反発を引き起こす。

貧困と社会構造の関係について人道的立場から発言を続けるジャン・ジグレールは、スイスの政治家であり社会学者。そうした資本主義の「負の側面」を語るのにうってつけの人物だ。

そもそも資本主義とは何か。途上国の負債がふくらみ続けるのはなぜか。格差が「人を殺す」とはどういうことか。

こうした疑問を出発点に、できるだけ平易な解説を試みたのが、ジグレールの新著『資本主義って悪者なの?――ジグレール教授が孫娘に語るグローバル経済の未来』(鳥取絹子訳、CCCメディアハウス)だ。

ここでは本書から一部を抜粋し、3回にわたって掲載する。この第3回ではジグレールが孫娘のゾーラに、ハゲタカファンドの冷酷な手法について解説する。

※第1回:「給与所得者の保護政策はどの国でも後退している」ジグレール教授の経済講義
※第2回:「途上国支配に最も有効な方法は債務漬けにすること」ジグレール教授の経済講義

◇ ◇ ◇

ハゲタカファンドって聞いたことがあるけれど、正確にはどういうものなの? だって、おじいちゃんと会うたびにその話をしてもらっていたから......。

――さっき話した通り、発展途上国の大半は対外債務に押しつぶされそうになっている。定期的に、一部の国は返済不能になって、債権側の大銀行に利息も減価償却分も払えなくなるのだね。その時点で、破産寸前になった国はこう言う。「わが国はもう払えません。債務を減額する相談に乗ってください」とね。

銀行側がそれに応じることがある。彼らの理論は、1銭ももらわないより、全体の30パーセントでも40パーセントでももらったほうがいいというものだ。そこで債務国は、債券と呼ばれる、当初の金額より70パーセントから60パーセント減額した新たな有価証券を発行する。

しかし、元の債券証書はそのまま市場に出回っている。ときを見計らって、タックス・へイヴンのバハマやキュラソー島、ジャージー島に本社を置く投資ファンドはそれらを非常な安値で買いたたき、次にニューヨークやロンドン、その他の国の裁判所に提訴して、原本の債務の100パーセントの返済を求める。そして、たいていの場合、ハゲタカが勝訴する! まさに死んだ動物や瀕死(ひんし)の動物を餌えさにするハゲタカのようにね。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

EXCLUSIVE-世界の中銀、準備資産で金・ユー

ワールド

イスラエル、イランへの攻撃指示 「停戦違反」主張 

ビジネス

中東情勢、火種残らないか注視必要=経団連会長

ビジネス

独IFO業況指数、6月は88.4 予想以上に上昇
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が尊敬する日本のCEO
特集:世界が尊敬する日本のCEO
2025年7月 1日号(6/24発売)

不屈のIT投資家、観光ニッポンの牽引役、アパレルの覇者......その哲学と発想と行動力で輝く日本の経営者たち

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々と撤退へ
  • 2
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 3
    飛行機内で「最悪の行為」をしている女性客...「あり得ない!」と投稿された写真にSNSで怒り爆発
  • 4
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 5
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測…
  • 6
    ホルムズ海峡の封鎖は「自殺行為」?...イラン・イス…
  • 7
    EU、医療機器入札から中国企業を排除へ...「国際調達…
  • 8
    細道しか歩かない...10歳ダックスの「こだわり散歩」…
  • 9
    「イラつく」「飛び降りたくなる」遅延する飛行機、…
  • 10
    「水面付近に大群」「1匹でもパニックなのに...」カ…
  • 1
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 2
    妊娠8カ月の女性を襲ったワニ...妊婦が消えた川辺の「緊迫映像」
  • 3
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事故...「緊迫の救護シーン」を警官が記録
  • 4
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 5
    「うちの赤ちゃんは一人じゃない」母親がカメラ越し…
  • 6
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
  • 7
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 8
    飛行機内で「最悪の行為」をしている女性客...「あり…
  • 9
    イタリアにある欧州最大の活火山が10年ぶりの大噴火.…
  • 10
    ホルムズ海峡の封鎖は「自殺行為」?...イラン・イス…
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊の瞬間を捉えた「恐怖の映像」に広がる波紋
  • 3
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 4
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 5
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「Mi…
  • 6
    妊娠8カ月の女性を襲ったワニ...妊婦が消えた川辺の…
  • 7
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事…
  • 8
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 9
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 10
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中