最新記事

ロシア

自国経済を崩壊させる独裁者に手を貸す独裁者

Poor Man’s Empire

2019年2月25日(月)17時33分
ウィリアム・コートニー(米ランド研究所上級研究員)、ハワード・シャッツ(同上級エコノミスト)

外交でリスクを取り過ぎれば国内経済が疲弊しかねない ILLUSTRATION BY ALEX FINE

<外国への干渉で国民のカネが消えていく――。プーチンが国民生活を犠牲にして手にするものとは?>

昨年末の会見で、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領は投資による「国内経済の質的向上の必要性」を認めた。だが外交面での浪費はその後も続き、経済重視に転じた気配はない。

12月にはベネズエラに核弾頭搭載可能な超音速戦略爆撃機ブラックジャックを2機も飛ばした。「2つの腐敗した政府が税金で自由を抑圧し、両国の国民が犠牲になっている」。マイク・ポンペオ米国務長官はそう批判した。ベネズエラの経済は悲惨だ。IMFは同国のインフレ率が年内に年率1000万%に達すると予測している。

アメリカも過去に、国内経済を犠牲にして朝鮮半島やベトナム、アフガニスタン、イラクなど戦争に大金をつぎ込んできた。冷戦期には各地の貧困国(ニカラグア、アンゴラ、ソマリアなど)へのソ連の影響力に対抗するために巨費を投じた。

それでもアメリカは多くの場合、自国の経済を強化し、世界経済の成長を促すことに力を入れてきた。1997~98年のアジア通貨危機で、FRB(米連邦準備理事会)は国際社会の対応を支援しただけでなく、危機の影響を受けた国々の援助でも主導的役割を演じた。10年後に発生した世界金融危機でも対策の先頭に立ったのはFRBだった。

貿易でも同様だ。アメリカのオバマ政権はTPP(環太平洋経済連携協定)の合意に向けて各国との交渉を主導した。その後のトランプ政権はTPPを離脱して中国と貿易戦争を始めたが、カナダやメキシコ、韓国との貿易協定は強化した。1月にはEUや日本との間で、不公正な貿易慣行の是正やイノベーションを阻む障壁の撤廃を進めることで合意している。

だが、ロシアを駆り立てているのは政治的な野心だ。周辺国に影響力を及ぼし、超大国の地位に復帰したいらしいが、そのための莫大な支出で自分の首を絞める結果になっている。

ウクライナ東部での紛争とクリミア併合、それに対する欧米の経済制裁で、ロシア経済は打撃を受けた。ブルームバーグ・エコノミクスによると制裁の影響で過去4年間にロシアのGDPは最大6%押し下げられた可能性があり、同地域への非軍事的支援でも年0.3%圧迫されている恐れがある。ジョージア(グルジア)とモルドバで、親ロシアの分離独立派が実効支配する地域への財政支援も必要だ。

平和的な国際協力も進展が思わしくない。例えばユーラシア経済同盟(ロシア、カザフスタン、ベラルーシ、アルメニア、キルギス)だ。現状でも加盟各国は「同盟外」の国々と活発に貿易を行っている。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

アングル:求人詐欺で戦場へ、ロシアの戦争に駆り出さ

ワールド

ロシアがキーウを大規模攻撃=ウクライナ当局

ワールド

ポーランドの2つの空港が一時閉鎖、ロシアのウクライ

ワールド

タイとカンボジアが停戦に合意=カンボジア国防省
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 2
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 3
    中国、インドをWTOに提訴...一体なぜ?
  • 4
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 5
    アベノミクス以降の日本経済は「異常」だった...10年…
  • 6
    「衣装がしょぼすぎ...」ノーラン監督・最新作の予告…
  • 7
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「…
  • 8
    【世界を変える「透視」技術】数学の天才が開発...癌…
  • 9
    中国、米艦攻撃ミサイル能力を強化 米本土と日本が…
  • 10
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 1
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 2
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 3
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指すのは、真田広之とは「別の道」【独占インタビュー】
  • 4
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツ…
  • 5
    中国、インドをWTOに提訴...一体なぜ?
  • 6
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低…
  • 7
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 8
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「…
  • 9
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足…
  • 10
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリ…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 3
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 4
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 5
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 6
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 7
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 8
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 9
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 10
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中