最新記事

ロシア

自国経済を崩壊させる独裁者に手を貸す独裁者

Poor Man’s Empire

2019年2月25日(月)17時33分
ウィリアム・コートニー(米ランド研究所上級研究員)、ハワード・シャッツ(同上級エコノミスト)

損失を生む超大国志向

それに、ロシアの超大国志向は高くつく。シリアに軍事介入した結果、国内の医療費や教育費、福祉支出は切り詰められた可能性がある。しかも露骨に民間施設を狙った空爆を実施したりしてアサド政権を支援したため、欧米諸国では対ロシア制裁の継続・強化を支持する世論が高まった。

シリアには今後、もっと資金を投入する必要が生じるかもしれない。昨年8月、国連は7年にわたるシリア内戦の損失を3880億ドル以上と試算した。この惨状からの復興を手助けしないと、ロシアはシリア国民の反発を買いかねない。だからこそ昨年1月には駐EUロシア大使が、欧州諸国もシリア復興に「数百億ユーロ」の援助を検討すべきだと牽制している。

ベネズエラも同様だ。既に250億ドルの資金をつぎ込んでいるが、回収の見込みはない。ちなみにイラクでも、ロシアはフセイン政権崩壊後に129億ドルの債権を放棄せざるを得ない事態に追い込まれている。

仮にマドゥロ政権が生き延びれば、ロシアは支援を続けるしかない。だがベネズエラの石油産業は設備の更新が遅れているし、アメリカから追加制裁を科された場合、国内経済は一段と疲弊するに違いない。逆に政権交代が起きた場合、ロシアの投資が守られる保証はない。

さすがに、危険な賭けから身を引く兆しもある。昨年末にはロシア最大の石油会社ロスネフチがイランとの合弁事業に300億ドル投資する計画を撤回した。リスク負担などでイラン側と折り合えなかったらしい。

超大国志向のツケはほかにもある。昨年、やむなく年金削減に踏み切ったところ、国民から抗議の渦が巻き起こった。シリアやウクライナなど「外国での冒険」の尻拭いをさせる気か、というわけだ。政府系世論調査機関の調べでも、プーチン政権に対する信頼度は年金「改革」のせいで33.4%まで下がった。

そんなロシアも、世界経済の恩恵を受けている。2016年にロシアのGDPは世界12位になり、世界最大の石油輸出国にもなった。しかし当時のオバマ米大統領は「ロシアはこれまで世界の重要な問題に積極的に関わってこなかった」と述べ、ロシアの姿勢を批判したものだ。

ロシアもグローバル化の波に乗り、先進諸国との絆を強めていけば、経済力を高めて国民の生活水準を引き上げることができるはずだ。そうすればG20などの場で影響力を発揮することもできよう。まずは国内経済の再建が大事。自国経済を崩壊させる独裁者に手を貸している場合ではない。

<2019年2月26日号掲載>

※2019年2月26日号(2月19日発売)は「沖縄ラプソディ/Okinawan Rhapsody」特集。基地をめぐる県民投票を前に、この島に生きる人たちの息遣いとささやきに耳をすませる――。ノンフィクションライターの石戸諭氏が15ページの長編ルポを寄稿。沖縄で聴こえてきたのは、自由で多層な狂詩曲だった。

ニューズウィーク日本版 岐路に立つアメリカ経済
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年6月3日号(5月27日発売)は「岐路に立つアメリカ経済」特集。関税で「メイド・イン・アメリカ」復活を図るトランプ。アメリカの製造業と投資、雇用はこう変わる

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米の鉄鋼関税引き上げ、EUが批判 「報復の用意」

ワールド

ガザ停戦案、ハマスは修正要求 米特使「受け入れられ

ワールド

米国防長官、「中国の脅威」警告 アジア同盟国に国防

ビジネス

中国5月製造業PMIは49.5、2カ月連続50割れ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:岐路に立つアメリカ経済
特集:岐路に立つアメリカ経済
2025年6月 3日号(5/27発売)

関税で「メイド・イン・アメリカ」復活を図るトランプ。アメリカの製造業と投資、雇用はこう変わる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    あなたも当てはまる? 顔に表れるサイコパス・ナルシストの特徴...その見分け方とは?
  • 2
    3分ほどで死刑囚の胸が激しく上下し始め...日本人が知らないアメリカの死刑、リアルな一部始終
  • 3
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「MiG-29戦闘機」の空爆が、ロシア国内「重要施設」を吹き飛ばす瞬間
  • 4
    「ホットヨガ」は本当に健康的なのか?...医師らが語…
  • 5
    【クイズ】生活に欠かせない「アルミニウム」...世界…
  • 6
    ペットの居場所に服を置いたら「黄色い点々」がびっ…
  • 7
    「これは拷問」「クマ用の回転寿司」...ローラーコー…
  • 8
    「ウクライナにもっと武器を」――「正気を失った」プ…
  • 9
    メーガン妃は「お辞儀」したのか?...シャーロット王…
  • 10
    イーロン・マスクがトランプ政権を離脱...「正直に言…
  • 1
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「MiG-29戦闘機」の空爆が、ロシア国内「重要施設」を吹き飛ばす瞬間
  • 2
    3分ほどで死刑囚の胸が激しく上下し始め...日本人が知らないアメリカの死刑、リアルな一部始終
  • 3
    あなたも当てはまる? 顔に表れるサイコパス・ナルシストの特徴...その見分け方とは?
  • 4
    今や全国の私大の6割が定員割れに......「大学倒産」…
  • 5
    【クイズ】世界で最も「ダイヤモンド」の生産量が多…
  • 6
    「ウクライナにもっと武器を」――「正気を失った」プ…
  • 7
    「ディズニーパーク内に住みたい」の夢が叶う?...「…
  • 8
    ヘビがネコに襲い掛かり「嚙みついた瞬間」を撮影...…
  • 9
    【クイズ】世界で2番目に「金の産出量」が多い国は?
  • 10
    イーロン・マスクがトランプ政権を離脱...「正直に言…
  • 1
    【定年後の仕事】65歳以上の平均年収ランキング、ワースト2位は清掃員、ではワースト1位は?
  • 2
    日本はもう「ゼロパンダ」でいいんじゃない? 和歌山、上野...中国返還のその先
  • 3
    脂肪は自宅で燃やせる...理学療法士が勧める「3つの運動」とは?
  • 4
    「2025年7月5日に隕石落下で大災害」は本当にあり得…
  • 5
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「Mi…
  • 6
    ドローン百機を一度に発射できる中国の世界初「ドロ…
  • 7
    【クイズ】EVの電池にも使われる「コバルト」...世界…
  • 8
    【クイズ】世界で2番目に「軍事費」が高い国は?...1…
  • 9
    3分ほどで死刑囚の胸が激しく上下し始め...日本人が…
  • 10
    あなたも当てはまる? 顔に表れるサイコパス・ナルシ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中