最新記事

シリア情勢

米軍撤退決定は、シリアにとってどういう意味を持つのか?

2018年12月26日(水)15時00分
青山弘之(東京外国語大学教授)

イスラエルとイランがシリアを主戦場として対立を深めれば、中東情勢全体に暗雲が立ちこめるかことになる。だが、悪いことばかりではない。なぜなら、シリア政府が55キロ地帯を掌握すれば、ヨルダンにいるシリア難民の窮状が緩和されるからだ。

ヨルダン北東部には、5万人ものシリア難民が身を寄せるルクバーン・キャンプがある。このキャンプをめぐっては、欧米諸国が、シリア政府が人道支援の搬入を妨害しているとの喧伝を繰り返してきた。だが、同盟国でもあるヨルダン国内で欧米諸国が支援活動をできないはずはない。シリア政府やUNHCR(国際連合難民高等弁務官事務所)による越境支援を阻止してきたのは、55キロ地帯によってシリア政府支配地域とキャンプを分断してきた有志連合と反体制派であり、同地の処遇が決すれば、ルクバーン・キャンプへの支援が円滑化するだけでなく、難民も帰国できるようになるだろう。

米軍撤退決定は、「英断」か「愚行」か....

米国は、「民主化」や「テロとの戦い」といった自らの正義を振りかざし、アスタナ会議の保障国であるロシア、イラン、トルコが推し進めようとする内戦後の秩序構築と、シリア政府主導下での復興の前に立ちはだかってきた。この秩序と復興は、内戦のなかで叫ばれてきた「自由」、「尊厳」、「主権」、「統合」の実現を必ずしも意味するものではない。だが、米国の正義もこうした理念とは無縁である。

シリアからの米軍撤退決定は、政治的な立場次第で、ロシア、イラン、トルコ、シリア政府との結託を通じて「勝ち馬」に乗ろうとする「英断」とみなすこともできれば、シリア内戦における米国の失敗と敗北を宣言する「愚行」と批判することもできるのである。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ビジネス

トランプ氏、雇用統計「不正操作」と主張 労働省統計

ビジネス

労働市場巡る懸念が利下げ支持の理由、FRB高官2人

ワールド

プーチン氏、対ウクライナ姿勢変えず 米制裁期限近づ

ワールド

トランプ氏、「適切な海域」に原潜2隻配備を命令 メ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプ関税15%の衝撃
特集:トランプ関税15%の衝撃
2025年8月 5日号(7/29発売)

例外的に低い日本への税率は同盟国への配慮か、ディールの罠か

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベーション、医師が語る熟年世代のセルフケア
  • 2
    日本人の児童買春ツアーに外務省が異例の警告
  • 3
    12歳の娘の「初潮パーティー」を阻止した父親の投稿がSNSで話題に、母親は嫌がる娘を「無視」して強行
  • 4
    カムチャツカも東日本もスマトラ島沖も──史上最大級…
  • 5
    【クイズ】2010~20年にかけて、キリスト教徒が「多…
  • 6
    ウォーキングだけでは「寝たきり」は防げない──自宅…
  • 7
    これはセクハラか、メンタルヘルス問題か?...米ヒー…
  • 8
    一帯に轟く爆発音...空を横切り、ロシア重要施設に突…
  • 9
    枕元に響く「不気味な咀嚼音...」飛び起きた女性が目…
  • 10
    ニューヨークで「レジオネラ症」の感染が拡大...症状…
  • 1
    ウォーキングだけでは「寝たきり」は防げない──自宅で簡単にできる3つのリハビリ法
  • 2
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベーション、医師が語る熟年世代のセルフケア
  • 3
    囚人はなぜ筋肉質なのか?...「シックスパック」は夜つくられる
  • 4
    いきなり目の前にヒグマが現れたら、何をすべき? 経…
  • 5
    日本人の児童買春ツアーに外務省が異例の警告
  • 6
    12歳の娘の「初潮パーティー」を阻止した父親の投稿…
  • 7
    いま玄関に「最悪の来訪者」が...ドアベルカメラから…
  • 8
    中国が強行する「人類史上最大」ダム建設...生態系や…
  • 9
    枕元に響く「不気味な咀嚼音...」飛び起きた女性が目…
  • 10
    【クイズ】1位は韓国...世界で2番目に「出生率が低い…
  • 1
    その首輪に書かれていた「8文字」に、誰もが言葉を失った
  • 2
    ウォーキングだけでは「寝たきり」は防げない──自宅で簡単にできる3つのリハビリ法
  • 3
    頭はどこへ...? 子グマを襲った「あまりの不運」が話題に
  • 4
    幸せホルモン「セロトニン」があなたを変える──4つの…
  • 5
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベー…
  • 6
    囚人はなぜ筋肉質なのか?...「シックスパック」は夜…
  • 7
    「細身パンツ」はもう古い...メンズファッションは…
  • 8
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 9
    「ベンチプレス信者は損している」...プッシュアップ…
  • 10
    ロシアの労働人口減少問題は、「お手上げ状態」と人…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中