最新記事

中東

イエメン停戦合意後も、なおくすぶる火種

Is Yemen’s Torment Finally Ending

2018年12月25日(火)15時10分
コラム・リンチ (フォーリン・ポリシー誌外交問題担当)

戦略的要衝のホデイダ港で空爆の被害状況を確認する作業員 Abduljabbar Zeyad-REUTERS

<国連の仲介で反政府派が大幅に譲歩――しかし空爆で実現した一時の平和は「力の空白」が生まれれば簡単に崩れる>

イエメンの首都サヌアを支配するイスラム教シーア派系武装勢力のホーシー派と、南部の港湾都市アデンを拠点にアラブの盟主サウジアラビアなどの支援を受ける暫定政府派。双方の熾烈な戦いが続くなか、国連のアントニオ・グテレス事務総長は12月13日、紅海に面する海の要衝ホデイダでの戦闘停止で合意ができたと発表した。国連の仲介の下、両派は6日からスウェーデンで協議を重ねていた。

中東の最貧国イエメンを世界最悪の人道危機に陥れた内戦をめぐるめったにない朗報だが、この合意が真の和平につながるとは思いにくい事情がある。

4年越しの内戦は何万もの死者(大半は一般人)と深刻な食料不足をもたらしている。これまでの外交努力は全て失敗に終わってきた。今回の合意もいずれは頓挫するとの悲観的な見方が多い。

元駐イエメン米大使のジェラルド・ファイアスタインは、合意は「一歩前進」と評価しつつも、両派に合意を履行する政治的意思があるかどうかを判断するのは難しいと指摘し、「祝杯を挙げるのはまだ早い」と語っている。

現状では、ホーシー派支配地域への空爆を主導するサウジアラビアと、それを支援する米軍に対する国際社会の、そして米議会からの圧力が高まっている。

米在住の著名サウジ人ジャーナリスト、ジャマル・カショギの殺害をめぐってサウジアラビアへの非難を強める米上院は13日、米軍のイエメン内戦への関与停止を求める決議を採択した。

ただし下院共和党とホワイトハウスはこの決議に反対を表明している。今議会で下院を通過する見通しは薄く、その意味合いは象徴的なものでしかない。しかし上院で採択されたこと自体が、米政界におけるサウジアラビアの評判が地に落ちたことの証しと言える。

一方でファイアスタインのような専門家は、ホデイダを支配するホーシー派に対するサウジ軍の猛烈な空爆作戦によって、今回の合意形成が導かれたと考える。現に、合意内容を見ると暫定政府派やサウジアラビアよりも、ホーシー派が大幅な譲歩を求められている。

停戦監視は国連が中心に

ファイアスタインによれば、サウジアラビアとその同盟国であるアラブ首長国連邦は、この夏以来「両面作戦」を進めてきた。ホーシー派に対する軍事的圧力を最大限に高めつつ、和平協議で譲歩を引き出す作戦で、「この作戦の効果が出たのかもしれない」と、彼は言う。

ホーシー派は今回、ホデイダ市街と3つの港(ホデイダ、サリーフ、ラス・イサ)から軍を撤退させることに合意した。今後は国連を中心とする「兵力再配備調整委員会」が、停戦遵守とホーシー派民兵の撤退の監視に当たることになる。

暫定政府とホーシー派はまた、国連の仲介の下で合同委員会を設置し、南西部タイズでの緊張緩和や港湾収益の中央銀行への送金、捕虜交換の実施などを進めることでも合意した。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

パキスタンとアフガン、即時停戦に合意

ワールド

台湾国民党、新主席に鄭麗文氏 防衛費増額に反対

ビジネス

テスラ・ネットフリックス決算やCPIに注目=今週の

ワールド

米財務長官、中国副首相とマレーシアで会談へ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:日本人と参政党
特集:日本人と参政党
2025年10月21日号(10/15発売)

怒れる日本が生んだ「日本人ファースト」と参政党現象。その源泉にルポと神谷代表インタビューで迫る

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号返上を表明」も消えない生々しすぎる「罪状」
  • 2
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多い県」はどこ?
  • 3
    ニッポン停滞の証か...トヨタの賭ける「未来」が関心呼ばない訳
  • 4
    本当は「不健康な朝食」だった...専門家が警告する「…
  • 5
    ギザギザした「不思議な形の耳」をした男性...「みん…
  • 6
    「認知のゆがみ」とは何なのか...あなたはどのタイプ…
  • 7
    自重筋トレの王者「マッスルアップ」とは?...瞬発力…
  • 8
    「中国は危険」から「中国かっこいい」へ──ベトナム…
  • 9
    【インタビュー】参政党・神谷代表が「必ず起こる」…
  • 10
    疲れたとき「心身ともにゆっくり休む」は逆効果?...…
  • 1
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号返上を表明」も消えない生々しすぎる「罪状」
  • 2
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以外の「2つの隠れた要因」が代謝を狂わせていた
  • 3
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多い県」はどこ?
  • 4
    まるで『トップガン』...わずか10mの至近戦、東シナ…
  • 5
    フィリピンで相次ぐ大地震...日本ではあまり報道され…
  • 6
    中国人が便利な「調理済み食品」を嫌うトホホな理由…
  • 7
    日本で外国人から生まれた子どもが過去最多に──人口…
  • 8
    「心の知能指数(EQ)」とは何か...「EQが高い人」に…
  • 9
    「欧州最大の企業」がデンマークで生まれたワケ...奇…
  • 10
    イーロン・マスク、新構想「Macrohard」でマイクロソ…
  • 1
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 2
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ監督が明かすプレーオフ戦略、監督の意外な「日本的な一面」とは?
  • 3
    カミラ王妃のキャサリン妃への「いら立ち」が話題に...「少々、お控えくださって?」
  • 4
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 5
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 6
    バフェット指数が異常値──アメリカ株に「数世代で最…
  • 7
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 8
    「日本の高齢化率は世界2位」→ダントツの1位は超意外…
  • 9
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
  • 10
    【クイズ】日本人が唯一「受賞していない」ノーベル…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中