最新記事

アメリカ政治

【追悼父ブッシュ】アメリカの大統領がまだ「まとも」だった頃

Bush's Note Handing Presidency to Clinton Goes Viral

2018年12月3日(月)16時30分
アレキサンダー・ハッスラー

勝敗も党派も超えて尊敬し合っていたブッシュ(右)とクリントン(写真は2011年) Jim Young-REUTERS

<11月30日に死去したジョージ・H・W・ブッシュが、次の大統領になるビル・クリントンに残した置手紙が、感動を呼んでいる>

11月30日にジョージ・H・W・ブッシュ第41代米大統領(共和党)が死去した。94歳だった。訃報が流れた後、彼がホワイトハウスを去る前に民主党のビル・クリントン次期大統領(当時)に残した手紙が脚光を浴び、感動が広がっている。

「今や君の成功はこの国の成功だ。心から応援している」と、ブッシュは1993年に政権を引き継いだクリントンに宛てて書いた。ブッシュは1992年に再選を目指して大統領選に出馬したが、選挙人投票で200票以上の差をつけられて敗北し、12年間続いた共和党政権は終わりを告げた。

73年連れ添った最愛の妻バーバラ・ブッシュは今年4月に92歳で死去したばかりだった。

11月30日の夜、長男のジョージ・W・ブッシュ第43代米大統領が父の死を発表すると、哀悼のメッセージが続々と寄せられた。

クリントンは12月2日の朝に米紙ワシントン・ポストの電子版に追悼文を寄稿。その冒頭で、初めてホワイトハウスの執務室に入った際に残されていたブッシュの手紙を紹介しながら、こう書いた。

「彼との友情は私の人生で最も素晴らしい贈り物の一つだ。(中略)数カ月前、メイン州ケネバンクポートで最後に会った時も、彼は家族に囲まれ、バーバラがいないことを寂しがっていた。私は一瞬を惜しんで彼から学んだ」

退任後さらに深まった友情

クリントンは、インドネシア・スマトラ島沖地震(2004年)とハリケーン・カトリーナ(2005年)の復興支援で二人三脚で陣頭指揮を執ったのをきっかけに、2人の友情がさらに深まったエピソードも詳しく書いた。2人は2006年、カトリーナで甚大な被害を受けた米ルイジアナ州ニューオーリンズにあるテュレーン大学に依頼され、卒業式で共にスピーチを行ったこともある。

「われわれ全員が、ジョージ・H・W・ブッシュの長寿と素晴らしい生き様に感謝し、彼がいつもそうしていたように、最もアメリカらしい方法で前途を切り開くことによって彼の生涯を称えるべきだ」と、クリントンは締めくくった。

1993年にブッシュがクリントンに残した手紙の全文は以下の通り:


ビルへ

たった今(大統領)執務室に入ったとき、4年前と同じ畏怖と敬意を感じた。きっと君も同じように感じるだろう。

ホワイトハウスでの君の幸福を祈る。数人の歴代大統領が語ったような孤独を、私は一度も感じなかった。

非常に困難な時期はきっと来る。君がフェアでないと思うような批判にさらされ、さらなる困難が生じることもあるだろう。私はあまり良い助言者ではないが、批判する者たちのせいで希望を失ったり道を外れたりしないでほしい。

この手紙を読む時、君はわれわれの大統領になっている。ご繁栄を祈る。君の家族のご繁栄を祈る。今や君の成功はこの国の成功だ。心から応援している。

幸運を、
ジョージ

(翻訳:河原里香)

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米、中国製半導体に関税導入へ 適用27年6月に先送

ワールド

トランプ氏、カザフ・ウズベク首脳を来年のG20サミ

ワールド

米司法省、エプスタイン新資料公開 トランプ氏が自家

ワールド

ウクライナ、複数の草案文書準備 代表団協議受けゼレ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    素粒子では「宇宙の根源」に迫れない...理論物理学者・野村泰紀に聞いた「ファンダメンタルなもの」への情熱
  • 2
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低く、健康不安もあるのに働く高齢者たち
  • 3
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツよりコンビニで買えるコレ
  • 4
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリ…
  • 5
    ジョンベネ・ラムジー殺害事件に新展開 父「これま…
  • 6
    12歳の娘の「初潮パーティー」を阻止した父親の投稿…
  • 7
    「何度でも見ちゃう...」ビリー・アイリッシュ、自身…
  • 8
    なぜ人は「過去の失敗」ばかり覚えているのか?――老…
  • 9
    砂浜に被害者の持ち物が...ユダヤ教の祝祭を血で染め…
  • 10
    楽しい自撮り動画から一転...女性が「凶暴な大型動物…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入ともに拡大する「持続可能な」貿易促進へ
  • 3
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 4
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツ…
  • 5
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開した…
  • 6
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低…
  • 7
    自国で好き勝手していた「元独裁者」の哀れすぎる末…
  • 8
    空中でバラバラに...ロシア軍の大型輸送機「An-22」…
  • 9
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリ…
  • 10
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 5
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 6
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 7
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 8
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 9
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 10
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中