最新記事

貿易戦争

トランプ貿易戦争の皮肉 ブラジル農家に豊かにし米国農家を苦しめる

2018年10月20日(土)11時01分

2018年8月、米アイオワ州ブーンで開かれた農業フェアで、展示された農業機械を見学する親子(2018年 ロイター/Jordan Gale)

ブラジル北東部の新興都市にある20階建ての高級コンドミニアム「ベラ・ビスタ」は、住民用の映画館やヘリポートまで備えており、18年前に形成されたかつての埃っぽい農業コミュニティが、いかに急発展を遂げたかを象徴している。

ルイスエドワルド・マガリャエンイスに建てられた同コンドミニアムには、地元の大豆生産者らが最大50万米ドル(約5600万円)を出して入居している。ここでは農機具の販売業者や、自動車ディーラー、建設資材店なども大いに繁盛している。

一方、そこから約8000キロ北にある米アイオワ州ブーンの農家は節約ムード一色だ。同州でトウモロコシと大豆を手掛けるスティーブ・シェパードさんも慎重だ。

「機械は何も買わない。カネは一切使わないようにしている」と最近同州で開かれた農業フェアに参加していたシェパードさんは語った。

同じ農業ビジネスでありながら、これほどブラジルと米国で明暗が分かれてしまった理由は、中国にある。

米中貿易戦争の拡大によって、世界の穀物生産業界に地殻変動が起きている。

トランプ米政権による中国製品向けの課税措置に対抗して、中国政府は米国産の農作物に関税を課した。その中には、金額ベースで米国最大の輸出農産物となる大豆に対する25%の関税も含まれる。米国農家は、昨年だけで120億ドル相当の大豆を中国に輸出していた。

この影響は即座に表れた。

世界最大の大豆輸入国である中国が、米国からの買い付けを縮小し、その代わり、ブラジルに目を転じたのだ。中国は、巨大な養豚産業を支えるために輸入大豆を必要としている。

中国需要の波に乗ってこの20年で世界有数の農業輸出国に成長したブラジルから、中国向けに輸出した大豆は金額ベースで、今年1月─9月に前年同期比22%増へ急増した。

ブラジル産大豆は、単に輸出量が増加しているだけではない。 1ブッシェル当たりの価格は、米国産より2.83ドル高くなっている。1年前の価格差は同0・60ドルだったが、中国需要のおかげで大きく差を広げた。

一方、米国産の大豆価格は最近、この10年で最低水準まで下がっており、生産コストを割り込んだと農家は訴えている。農業部門の不況は、他業種では好調な米国経済の足を引っ張っている。

トランプ政権は7月、貿易摩擦関連の悪影響を軽減するため、国内農家に対する最大120億ドルの救済措置を発表。ただ、この措置は縮小する可能性がある。

米国農家は、トランプ大統領の誕生を後押しした保守的な有権者が大半で、多くが今もトランプ支持を変えていない。彼らは、大統領がいずれ、中国との交渉でより良い貿易合意をまとめると期待している。中国の大豆需要は旺盛で、完全に米国産を切り離すことはできない。

だが現段階でトランプ貿易政策は、貴重な市場シェアや資金、そして勢いを、農業部門で最大のライバル国ブラジルに譲り渡す結果となっている。失地挽回は困難だと懸念する声も上がっている。

「関税関係で、米国にとって悪いニュースは、彼ら(ブラジル)には良いニュースだ」。農業機械メーカーAGCOで米州担当マネジャーを務めるロバート・クレイン氏は、アイオワ州の農業フェアでロイターに語った。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

NY外為市場=ドル安定的、円相場160円に接近 中

ワールド

トランプ氏、イラン「一夜で壊滅」も 米兵救出報道の

ビジネス

米国株式市場=上昇、トランプ氏発言と米・イラン協議

ワールド

アルテミス2の宇宙船オリオン、人類の最遠到達記録を
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプの大誤算
特集:トランプの大誤算
2026年4月14日号(4/ 7発売)

国民向け演説は「フェイク」の繰り返し。泥沼化するイラン攻撃の出口は見えない

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    米特殊部隊、米空軍兵士救出「大成功」に残る多くの疑問
  • 2
    「考えの浅い親」が子どもに言ってしまっている口ぐせ・ワースト1
  • 3
    【銘柄】イラン情勢で一躍脚光の「NEC」 防衛・宇宙の2大テーマでAI懸念を払拭できるか
  • 4
    地面にくねくねと伸びる「奇妙な筋」の正体は? 飛行…
  • 5
    トランプ、イランに合意期限「米東部時間6日午前10時…
  • 6
    「高市しぐさ」の問題は「媚び」だけか?...異形の「…
  • 7
    イラン戦争の現実...アメリカとイスラエル、見え始め…
  • 8
    攻撃開始日も知っていた?──イラン戦争を巡る巨額取引…
  • 9
    人口減の自治体を救う「小さな浄水場」──誰もが常に…
  • 10
    スパイス企業の新戦略...エスビー食品が挑む「食のア…
  • 1
    米特殊部隊、米空軍兵士救出「大成功」に残る多くの疑問
  • 2
    「根底にあるのは怒り」...日本の「3Dプリンター住宅」企業が救う、ウクライナの未来
  • 3
    イラン戦争の現実...アメリカとイスラエル、見え始めた限界
  • 4
    「考えの浅い親」が子どもに言ってしまっている口ぐ…
  • 5
    攻撃開始日も知っていた?──イラン戦争を巡る巨額取引…
  • 6
    なぜイスラエルは対イラン戦争を支持するのか...「イ…
  • 7
    【銘柄】イラン情勢で一躍脚光の「NEC」 防衛・宇宙…
  • 8
    中国がイラン戦争最大の被害者? 習近平の誤った経…
  • 9
    「高市しぐさ」の問題は「媚び」だけか?...異形の「…
  • 10
    年金は何歳からもらうのが得? 男女で違う「最適な受…
  • 1
    温暖化で増えた? サンマやサケ減少の裏で激増する「安価で栄養価の高い魚」の正体
  • 2
    ロシア政府、痛恨のミス...プーチンの「健康不安説」を裏付けるような動画を公式に投稿してしまう
  • 3
    「根底にあるのは怒り」...日本の「3Dプリンター住宅」企業が救う、ウクライナの未来
  • 4
    メーガン妃、娘リリベット王女との新ショット公開...…
  • 5
    米特殊部隊、米空軍兵士救出「大成功」に残る多くの…
  • 6
    「ノーと言えるスペイン」の背景に国防意識...次期ス…
  • 7
    キャサリン皇太子妃、ナイジェリア大統領夫妻出迎え…
  • 8
    数時間以内に死に至ることも...若者の間で集団感染が…
  • 9
    「日本より、自分の国(フランス)を心配すれば?」…
  • 10
    米軍も防ぎきれないイランのドローン攻撃──イラン製…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中