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顧客本位の会社であり続けるために

2018年10月23日(火)11時00分

伊藤洋之輔 株式会社外装専科 代表取締役 会長 1945 年生まれ、山口県出身。19 歳から塗装・防水工事業に従事。80 年アズマ工業株式会社設立。95 年に年商24 億円を達成するも大幅な赤字を計上し倒産。個人で事業を再開し、03 年有限会社外装専科設立。05 年株式会社に改組。マンション大規模修繕工事に特化した事業を行う。

今年5月、管理組合の利益と相反する業者が存在するとの指摘を受け、国土交通省が初めて実態調査に乗り出し注目を集めるマンション大規模修繕工事。早くから数々のメディアで業界への問題提起をしてきた伊藤洋之輔氏のビジョンに迫る。

大規模修繕とは、分譲マンションなどの性能を維持し老朽化を防止するために行う外壁塗装や屋上防水などの工事で、多くの場合はマンションの管理組合が主導し、所有者から徴収する修繕積立金で計画的に実施する。この大規模修繕に特化した事業を展開し、設立15年で年商21億円を達成した会社がある。東京都文京区に本社を置く株式会社外装専科だ。

代表取締役会長を務める伊藤洋之輔氏は「19歳の時から53年、この道一筋に歩んできました。数多くの失敗を経験してきたからこそ、お客様に適切な提案ができる。この道では誰にも負けないという強い思いがあります」と力を込めて話す。現在は経営者として辣腕を振るう伊藤氏だが、かつては父の営む塗装・防水工事業で職人としての修業を積み、24歳で独立。過去にはアメリカの大使館や領事館などの内外装工事をアメリカ合衆国から直接、元請けとして請け負ったこともある。「大規模修繕に必要な工事を知り尽くしているので、ムダのない見積ができ、コストを最低限に抑えることができる。それが当社の強みの一つです」。

一般的にマンションの大規模修繕というと、それを行わないと建物自体が壊れてしまうかのように言われ、必要以上に多額の修繕費が使われているケースが多いが、実際に行われているのは建物の表面的な工事なのだという。「配管などは経年劣化がありますが、コンクリート自体は、基本的にはそれほど痛むものではない。ひび割れを補修して上から塗装したり、タイルの補修や張り替えしたりする工事がメインで、人間の身体でいうと皮膚の火傷や切り傷などのケガを治すようなイメージ。さしずめ『マンションの外科医』といったところでしょうか」。

外装専科では「不要不急の工事や過剰な工事は行わない」という伊藤氏の考えに基づいた独自の見積書を作成している。社内基準が平準化されているので、誰が見積を立てても大きな差がない。建物の状況を把握し、価格の高い組立足場で行う必要がないと判断した場合は、ブランコ足場やゴンドラ工法で外壁工事を行う。また、大半の修繕工事をマンションの管理組合から直接受注し、同社の専属職人約140名が施工していることも大幅なコスト削減を可能にしている要因だ。「少しでも修繕積立金を残してあげたい。もし全部使うことになったとしても、必ず資産価値があがるような工事を提案している。『この建物が自分のものだったら』と考えることが大事だと思っています」。お客様の目線に立つ。伊藤氏のこの考えが社風として根付き、16年目となる今期も順調に業績を伸ばしている。

こうした顧客目線でのコスト削減に加え、さらなる躍進の原動力となっているのが、同社の施工実績から生まれる「信用」だ。同社はこのほど2008年以降に手掛けた650件超の実積すべてに工事保証内容を併記した「工事経歴書」を公開。伊藤氏はその目的について「すべての情報を開示することが、われわれが長年にわたり誠実な工事を行ってきていることの何よりの証明になる。不具合があった場合はきちんとアフターケアを行っていることも、この経歴書を見れば一目瞭然」と話す。1件たりとも手抜きをした記憶はなく、真摯にお客様と向き合ってきたからこその自信がそこにはある。この工事経歴書は間違いなく今後も同社発展の支えとなるだろう。「これからも正直で誠実な工事をモットーに、管理組合様に寄り添った経営を続けたい」。柔らかに微笑みながらも、外装専科にしかできないことをやるのだという強い意志が垣間見えた。

「お客様にご満足いただくこと。それがすべてにつながっています」。外装専科のオフィスの一室には、これまでに手がけたマンションの大規模修繕に対し管理組合から送られた感謝状が壁一面に飾られ、その数は140枚に達している。「良い仕事をするとこうして喜んでもらえる。本当にうれしい限りです。当社の職人が一堂に会する年2回の安全大会では常に、これからも感謝状がもらえるような良い仕事をしましょうと話しています」。

工事経歴書の1ページ目を見ると、そのほとんどが千葉周辺の建物だ。「前社では急激に業績が拡大していく中、管理体制の甘さから大幅な赤字を計上し倒産させてしまった。なんとかもう一度立ち直ろうと思い、個人で塗装業を再開。とにかく必死に、寝る間も惜しんで働きました。それでも決して利益優先ではなく、誠実な仕事をしようと取り組んだ結果、お客様からの紹介やリピートで仕事がつながっていきました」。その後、2003年に前身である有限会社外装専科を千葉市に設立、現在に至る。「これからもお客様本位の会社であり続けたい。それが当社の原点であり、私の生きがいでもあります」。確固たる信念のもとに、伊藤氏の挑戦は続く。

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