最新記事

中国経済

政府主導で補助金漬けの中国EV開発 「淘汰の時代」は間近か

2018年10月22日(月)11時25分

10月17日、中国では、当局の後押しにより企業数百社が電気自動車(EV)の開発にしのぎを削っている。写真はEV。河北省で2016年4月撮影。提供写真(2018年 ロイター/China Stringer Network)

中国では、当局の後押しにより企業数百社が電気自動車(EV)の開発にしのぎを削っている。政府は過当競争を通じてEVの価格を引き下げてこの産業を強化する戦略で、今後は淘汰が進みそうだ。

EV開発には自動車大手だけでなく、再生可能エネルギー設備メーカー、電池メーカー、不動産会社まで幅広い業種が乗り出している。

そうした中の一つ、EVを設計するオートマジック社のZhou Xuan社長は「(群雄割拠は)仕方ない。新たな技術や産業が興るときには、数百の思想と数百の花が開花するものだ」と話す。故毛沢東氏が新たなアイデアを掘り起こすために繰り広げた「百花斉放百家争鳴」キャンペーンに触れた発言だ。

中国政府は優遇政策と強大な製造業のパワーを活用し、EV開発で世界最前線の地位を確保しようと努めている。昨年末までに新エネルギー車(ENV)の保有者は180万人と世界全体の半数に達した。

工業情報省は7月、全国118社が設計したNEVデザインの中から推奨される428種を公表した。この中には第一汽車集団や吉利汽車控股といった大手だけでなく、中小企業のデザインも含まれる。

しかし当局は既に過剰生産能力や、やみくもな開発を懸念している。補助金が削減されれば、小規模なスタートアップ企業は競争力を磨く必要が出てくる。

Zhou社長は「激しい競争の末に原石が現れ、弱者は統合あるいは淘汰されるだろう」と言う。

戦略的な供給過剰

中国はこれまでも、鉄鋼や石炭、太陽光パネルなどの分野で過剰生産能力の削減を迫られてきた。

次はEVかもしれない。重工業中心だった産業を「刷新」せよとの国の圧力の下、地方政府はEV企業の育成に力を入れてきたが、非効率な企業への補助金によって既に市場がゆがんでいるとの指摘も出ている。

業界幹部は「目下のところ、NEVの急速な拡大は市場の選択によるものではなく、政府が導いた結果だ。補助金に支えられた成長だ」と話す。

実際、中国国家発展改革委員会(NDRC)は今年、EV産業のやみくもな拡大に切り込む方針を表明。設備稼働率が80%に満たない地域では生産設備の新設を阻止するとした。

しかし中国はしばしば「戦略的な」供給過剰をテコに競争力を高めてきた。太陽光発電では過剰生産を背景に、企業が補助金なしで従来型エネルギーと戦える水準までコスト削減を迫られた。

高級車メーカーICONIQモーターズの営業部長Liu Xiaolu氏は、多数の企業が競うのは産業発展のために「必要な段階」かもしれないと指摘。「20社だけで必ず産業全体を発展させられるとは言えない。まずは全員が集まり、その後徐々に淘汰されるしかないのかもしれない」と語った。

David Stanway

[杭州 17日 ロイター]


トムソンロイター・ジャパン

Copyright (C) 2018トムソンロイター・ジャパン(株)記事の無断転用を禁じます

ニューズウィーク日本版 日本人と参政党
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年10月21日号(10月15日発売)は「日本人と参政党」特集。怒れる日本が生んだ参政党現象の源泉にルポで迫る。[PLUS]神谷宗弊インタビュー

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

EUの「ドローンの壁」構想、欧州全域に拡大へ=関係

ビジネス

ロシアの石油輸出収入、9月も減少 無人機攻撃で処理

ワールド

イスラエル軍がガザで発砲、少なくとも6人死亡

ビジネス

日銀、ETFの売却開始へ信託銀を公募 11月に入札
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:中国EVと未来戦争
特集:中国EVと未来戦争
2025年10月14日号(10/ 7発売)

バッテリーやセンサーなど電気自動車の技術で今や世界をリードする中国が、戦争でもアメリカに勝つ日

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以外の「2つの隠れた要因」が代謝を狂わせていた
  • 2
    中国人が便利な「調理済み食品」を嫌うトホホな理由とは?
  • 3
    メーガン妃の動画が「無神経」すぎる...ダイアナ妃をめぐる大論争に発展
  • 4
    車道を一人「さまよう男児」、発見した運転手の「勇…
  • 5
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になり…
  • 6
    フィリピンで相次ぐ大地震...日本ではあまり報道され…
  • 7
    筋肉が目覚める「6つの動作」とは?...スピードを制…
  • 8
    連立離脱の公明党が高市自民党に感じた「かつてない…
  • 9
    あなたの言葉遣い、「AI語」になっていませんか?...…
  • 10
    1歳の息子の様子が「何かおかしい...」 母親が動画を…
  • 1
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 2
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな飼い主との「イケイケなダンス」姿に涙と感動の声
  • 3
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以外の「2つの隠れた要因」が代謝を狂わせていた
  • 4
    【クイズ】日本人が唯一「受賞していない」ノーベル…
  • 5
    中国人が便利な「調理済み食品」を嫌うトホホな理由…
  • 6
    ロシア「影の船団」が動く──拿捕されたタンカーが示…
  • 7
    ベゾス妻 vs C・ロナウド婚約者、バチバチ「指輪対決…
  • 8
    時代に逆行するトランプのエネルギー政策が、アメリ…
  • 9
    ウクライナの英雄、ロシアの難敵──アゾフ旅団はなぜ…
  • 10
    トイレ練習中の2歳の娘が「被疑者」に...検察官の女…
  • 1
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 2
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 3
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ監督が明かすプレーオフ戦略、監督の意外な「日本的な一面」とは?
  • 4
    カミラ王妃のキャサリン妃への「いら立ち」が話題に.…
  • 5
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 6
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 7
    バフェット指数が異常値──アメリカ株に「数世代で最…
  • 8
    「日本の高齢化率は世界2位」→ダントツの1位は超意外…
  • 9
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
  • 10
    数千円で買った中古PCが「宝箱」だった...起動して分…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中