最新記事

世界遺産

文化遺産がリニューアルに失敗? マレーシアのバトゥ洞窟、極彩色にした階段に非難殺到

2018年8月30日(木)18時30分
大塚智彦(PanAsiaNews)


バトゥ洞窟の階段が塗り替えられた騒動を伝える現地メディア  The Star Online / YouTube

法律違反かどうか、という問題は別にして「周囲の景観との不釣り合い」との指摘が出ていることに関して寺院の改修委員会は「今回の塗り直しはさらに観光客を引きつけることになり、それを含めた改修は信者によりよい祈りの場を提供することになる」と説明、「世論」は意に介さない方針のようだ。

マレーシアの現地メディアによると、今回の改修には寄付を含めて約610万マレーシアリンギット(約1600万円)の経費がかかっており、階段の色塗り替えは改修委員会会長の息子が出したアイデアだったことも「世論を一顧だにしない頑なな姿勢」の背景にあるのではないかとみられている。

観光誘致のロゴマークも批判で撤回

マレーシアの観光業界を巡っては、2020年までの観光誘致キャンペーンで観光促進用の公式ロゴが批判を浴びて作り直す事態に追い込まれている。(Newsweek日本語版8月15日参考)ロゴに描かれていたマレーシアを象徴する動物であるオランウータンとデングザル、亀が揃ってサングラスをかけていたのがその批判の原因だった。

今回のバトゥ洞窟の階段塗り替えもロゴ作り直しのようにマレーシアの一般市民の視点がそもそも欠如していたことも一因となっているのではないかとの指摘もある。

しかしその一方で、バトゥ洞窟は観光地ではあるが基本的にヒンドゥー教の寺院という宗教施設であり「その改修や色塗りに関係者以外が口を挟む問題ではないのではないか」との意見があるのも事実である。

地元の「スターメトロ」の報道では、以前バトゥ洞窟をユネスコの文化遺産に登録させようという運動があったものの、「現状の建造物が周囲の環境と著しく調和していない」との理由で登録を見送られた経緯があると指摘している。

newsweek_20180830181118.JPG

階段の塗り替え前のバトゥ洞窟の全景。確かに寺院の施設は周囲の自然と「著しく」調和していない。(撮影筆者)

バトゥ洞窟があるセランゴール州当局も「こちらにも階段の色塗り替えの連絡は届いていない」と「階段の色」問題には関心を示しており、政府の文化財保護局とともに「今後何が必要で、何ができるのか、寺院側の説明をよく聞いたうえで、話し合いによる解決策をみつけたい」としている。


otsuka-profile.jpg[執筆者]
大塚智彦(ジャーナリスト)
PanAsiaNews所属 1957年東京生まれ。国学院大学文学部史学科卒、米ジョージワシントン大学大学院宗教学科中退。1984年毎日新聞社入社、長野支局、東京外信部防衛庁担当などを経てジャカルタ支局長。2000年産経新聞社入社、シンガポール支局長、社会部防衛省担当などを歴任。2014年からPan Asia News所属のフリーランス記者として東南アジアをフィールドに取材活動を続ける。著書に「アジアの中の自衛隊」(東洋経済新報社)、「民主国家への道、ジャカルタ報道2000日」(小学館)など

ニューズウィーク日本版 日本時代劇の挑戦
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年12月9日号(12月2日発売)は「日本時代劇の挑戦」特集。『七人の侍』『座頭市』『SHOGUN』 ……世界が愛した名作とメイド・イン・ジャパンの新時代劇『イクサガミ』/岡田准一 ロングインタビュー

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

韓国検察、尹前大統領の妻に懲役15年求刑

ワールド

プーチン氏、一部の米提案は受け入れ 協議継続意向=

ビジネス

英サービスPMI、11月は51.3に低下 予算案控

ワールド

アングル:内戦下のスーダンで相次ぐ病院襲撃、生き延
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:日本時代劇の挑戦
特集:日本時代劇の挑戦
2025年12月 9日号(12/ 2発売)

『七人の侍』『座頭市』『SHOGUN』......世界が愛した名作とメイド・イン・ジャパンの新時代劇『イクサガミ』の大志

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    人生の忙しさの9割はムダ...ひろゆきが語る「休む勇気」
  • 2
    大気質指数200超え!テヘランのスモッグは「殺人レベル」、最悪の環境危機の原因とは?
  • 3
    トランプ支持率がさらに低迷、保守地盤でも民主党が猛追
  • 4
    日本酒の蔵元として初の快挙...スコッチの改革に寄与…
  • 5
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙す…
  • 6
    コンセントが足りない!...パナソニックが「四隅配置…
  • 7
    若者から中高年まで ── 韓国を襲う「自殺の連鎖」が止…
  • 8
    【クイズ】日本で2番目に「ホタテの漁獲量」が多い県…
  • 9
    海底ケーブルを守れ──NATOが導入する新型水中ドロー…
  • 10
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させ…
  • 1
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで墜落事故、浮き彫りになるインド空軍の課題
  • 2
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙すぎた...「心配すべき?」と母親がネットで相談
  • 3
    【最先端戦闘機】ミラージュ、F16、グリペン、ラファール勢ぞろい ウクライナ空軍は戦闘機の「見本市」状態
  • 4
    100年以上宇宙最大の謎だった「ダークマター」の正体…
  • 5
    【クイズ】次のうち、マウスウォッシュと同じ効果の…
  • 6
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 7
    128人死亡、200人以上行方不明...香港最悪の火災現場…
  • 8
    【寝耳に水】ヘンリー王子&メーガン妃が「大焦り」…
  • 9
    【クイズ】世界遺産が「最も多い国」はどこ?
  • 10
    【銘柄】関電工、きんでんが上昇トレンド一直線...業…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 4
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」は…
  • 5
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 6
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 7
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 8
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 9
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 10
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中