最新記事

ルワンダ

コフィ・アナン負の遺産──国連はなぜルワンダ虐殺を止められなかったのか?

2018年8月27日(月)16時00分
米川正子(立教大学特定課題研究員、コンゴの性暴力と紛争を考える会の代表)

それから4年後の1998年5月、アナン氏は国連事務総長就任後の「癒しのミッション」でルワンダを訪れた際に、同政府に冷遇された。アナン氏はルワンダ議会で演説したのだが、その前に、ルワンダのガサナ外務大臣が国連を非難する演説をした。1923年に国際連盟がルワンダをベルギーの支配下に置いたことから始まって、国連がいかにルワンダを見捨てたのかという内容だった。

その演説を聞いた多くの議員らは、「国連は悪者」と植え付けられたのだろう。その後、アナン氏は演説で、ルワンダでの国連と国際社会の失敗を全面的に認め、以下のように述べた。「邪悪が支配したときにおいて、世界がルワンダを見捨てたことを、われわれは認めなければならない。国際社会と国連は、邪悪に立ち向かうための政治的意思を参集することができなかった。世界はこの失敗を、深く悔いる必要がある」。その後、議員らからはルワンダにPKOを派遣させなかった同氏の役目を問いただす質問が投げかけられた。

その演説の場に、ルワンダのビジムング大統領とカガメ副大統領は欠席し、ラジオで演説を聞いていた。演説では、アナン氏は「ルワンダの恐怖は内側から発生した」「政府の皆様方だけが暴力抗争に終止符を打つことができる」と述べた。同氏が言及したかった点は、国際社会と国連が十分な行動をとることができなかったのは事実であるが、ルワンダの苦難の原因、特に民族間の和解を促進する必要があることを強調したかったのである。

また、ルワンダ国内ではPKOはジェノサイドを止める力を持っていたのに、黙認していたと間違って認識されていたが、ルワンダに駐留していた国連部隊のみでは、ジェノサイドを止めることができなかった。確かに、UNAMIRはより多くの命を救うために増員されるべきだったが、ルワンダ全国で展開されていたジェノサイドを止めるには、RPFと同じくらいの戦闘能力を擁した部隊が必要だった。

その場にいたセバレンジ議会議長はそれに同意し、そもそもジェノサイドはルワンダ人が同国人を殺害したために、ルワンダ人が自身の内側を見つめる必要があることを痛感していた。しかし、政府の多くの関係者は、アナン氏の発言を被害者を責めているものと捉えた。それが批判の原因となってしまい、演説後に開催された政府主催のレセプションでも、大統領と副大統領はボイコットしたのである。外交上、あってはならない行為である。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米金利先物、9月利下げ確率60%に小幅上昇 PCE

ビジネス

ドル34年ぶり157円台へ上昇、日銀の現状維持や米

ワールド

米中外相会談、ロシア支援に米懸念表明 マイナス要因

ビジネス

米PCE価格指数、3月前月比+0.3%・前年比+2
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された米女優、「過激衣装」写真での切り返しに称賛集まる

  • 3

    中国の最新鋭ステルス爆撃機H20は「恐れるに足らず」──米国防総省

  • 4

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 5

    アカデミー賞監督の「英語スピーチ格差」を考える

  • 6

    大谷選手は被害者だけど「失格」...日本人の弱点は「…

  • 7

    今だからこそ観るべき? インバウンドで増えるK-POP…

  • 8

    19世紀イタリア、全世界を巻き込んだ論争『エドガル…

  • 9

    「性的」批判を一蹴 ローリング・ストーンズMVで妖…

  • 10

    「鳥山明ワールド」は永遠に...世界を魅了した漫画家…

  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 3

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた「身体改造」の実態...出土した「遺骨」で初の発見

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 8

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 9

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 10

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の瞬間映像をウクライナ軍が公開...ドネツク州で激戦続く

  • 3

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈する動画...「吹き飛ばされた」と遺族(ロシア報道)

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 6

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 10

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中