最新記事

イタリア

43人犠牲のジェノバ高速道路崩落 何が事故を呼び起こしたのか

2018年8月30日(木)11時00分

ジェノバで17日、立ち入り禁止となった自宅から身の回りの品を持ち出す住人ら(2018年 ロイター/Massimo Pinca)

イタリア北部ジェノバで14日崩落した高架橋の下で暮らす住人は、長年この橋がぼろぼろの状態だと知っていた。この橋から、これまで破片が住宅や車に落下し続けていたからだ。

高架橋の上を走行していた車を巻き込み、43人が犠牲となった事故発生の1カ月前には、住民が高速道路の保守を担当するジェノバの責任者と会合を持ち、対応を質問していた。

隣国フランスとジェノバを結ぶ高速道路が通るこの高架橋は、高さ約50メートル、長さ1.2キロのつり橋で、数十年にわたり海風にさらされ、徐々に腐食が進んでおり、常に補修作業が必要な状態だった。

住民は、我慢の限界に達していた。先月18日の会合では、昼夜を問わず行われる補修作業が睡眠の妨げになっていると、高速道路の運営会社アウトストラーデ・ペル・イタリアの職員2人に対し、彼らが不満をぶつけていたことが、市議会が公開した録音で分かった。

しかし、その席上で建設から51年経ったこの橋の安全性について質問した人は、誰もいなかった。イタリア北部でよく見受けられる、公共機関に対する高い信頼の表れともいえるが、その信頼は今回の崩落事故により、根本から揺らいでしまった。

数十年にわたり橋の下に住み、常態化した補修工事に慣れきっていた住民は、橋が崩落するなど、まったく想像もしていなかったようだ。

この会合では、地元市会議員マウロ・アベネンテ氏が、最も根本的な問いに近づいた。同議員は、「この橋の残る耐用年数について、見積もりは行ったのか」と質問したのだ。だがその問いは、多くの質問にまぎれてしまい、具体的な回答は得られなかった。

自動車やトラック数十台が数千トンのコンクリート片とともに川底に沈んだ今回の事故を受けて、アベネンテ議員は、橋の状態が劣悪だと皆が認識していたと述べて、こう付け加えた。「あそこを通るときは、アクセルを踏み込んでいた」

遅くとも1980年代には、橋から落ちてくる破片によって自家用車が損害を受けた場合に補償を申請するための書類が存在していた、と年金生活者のサルバトーレ・ロレフィーチェさんは語る。

橋の閉鎖や通行制限の必要性にまで考えが及ぶ関係者が誰もいなかったとみられる点についても、今回の大惨事が起きた1つの要素として、ジェノバ検察当局が捜査を進めている。

予防的措置として閉鎖するには、この高速道路が重要すぎると認識されていた可能性を疑っているか、と問われたパオロ・ドビディオ検察官は、「私見かもしれないが、それは捜査の範疇ではない」と答えた。

イタリアのポピュリスト新政権は、ミラノ証券取引所に上場するインフラ企業アトランティア傘下のアウトストラーデに対する監督が不十分だったと前政権を批判。橋の重要性から見て、閉鎖や交通規制は最後の手段だと考えていた可能性が高い、と主張している。

崩落した高架橋は、ジェノバ港と他の地域を結び、町の両端をつなぐもので、アウトストラーデが管轄する有料道路の中でも、最も交通量の多い部類に入った。

「この重要性が高いことから、前政権が部分的であっても、閉鎖は最終手段だと考えていた可能性が高い」と、インフラ整備交通省はロイターに文書で回答した。デルリオ前インフラ整備交通相は、現段階で、コメントの要請に応じていない。


事故について報じるイタリアのメディア La Repubblica / YouTube

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米大統領とイスラエル首相、ガザ計画の次の段階を協議

ワールド

中国軍、30日に台湾周辺で実弾射撃訓練 戦闘即応態

ビジネス

日経平均は反落で寄り付く、主力株の一角軟調

ワールド

トランプ氏、ウクライナ和平の進展期待 ゼレンスキー
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 2
    マイナ保険証があれば「おくすり手帳は要らない」と考える人が知らない事実
  • 3
    【銘柄】子会社が起訴された東京エレクトロン...それでも株価が下がらない理由と、1月に強い秘密
  • 4
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 5
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 6
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」と…
  • 7
    「アニメである必要があった...」映画『この世界の片…
  • 8
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 9
    2026年、トランプは最大の政治的試練に直面する
  • 10
    素粒子では「宇宙の根源」に迫れない...理論物理学者…
  • 1
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 2
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 3
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 4
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 5
    中国、インドをWTOに提訴...一体なぜ?
  • 6
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツ…
  • 7
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低…
  • 8
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 9
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足…
  • 10
    アベノミクス以降の日本経済は「異常」だった...10年…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 3
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 4
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 5
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「…
  • 6
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 7
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 8
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 9
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 10
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中