最新記事

北朝鮮

金正恩の背後の足場に「死亡事故を予感」させる恐怖写真

2018年7月13日(金)16時40分
高英起(デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト) ※デイリーNKジャパンより転載

三池淵郡の建設現場を視察する金正恩。後ろに見える建物の足場がいかにも心もとない KCNA-REUTERS

<金正恩の建設現場の視察を報じる写真に写っていたのは、専門家が見れば「見るからに不安」を感じるほどのずさんな作りの足場>

北朝鮮では「速度戦」の名の下に、無理な工期のごり押しによる手抜き工事が横行。また、安全設備がないことがほとんどで、死亡事故が頻発している。

例えば1989年4月、高速道路の建設現場で、建設途中の橋が崩落する事故が発生した。この時、現場にいた500人が120メートル下の川原に落下。後に韓国へ逃れた目撃者たちの証言によれば、川原には原形をとどめない死体が散乱し、救助の看護師たちが気を失うほどの地獄絵図と化したという。

参考記事:【再現ルポ】北朝鮮、橋崩壊で「500人死亡」現場の地獄絵図

北朝鮮当局が進める巨大プロジェクト「端川(タンチョン)発電所」の建設現場では、建設に動員された朝鮮人民軍(北朝鮮軍)護衛司令部1旅団だけで、1ヶ月に34人の兵士が死亡している。つまり、実際はこれよりもはるかに多くの命が失われているということだ。

これは、金正恩氏が現地指導を行うような、重要な現場でも同じである。

北朝鮮国営の朝鮮中央通信や朝鮮労働党機関紙の労働新聞は10日、金正恩党委員長が中国との国境地域にある両江道(リャンガンド)の三池淵(サムジヨン)郡の各所の視察を行ったことを大きく報じた。

公開された写真の中には、金正恩氏が建設現場を視察する様子を収めたもの(冒頭の写真)があるが、背景に写っている建設中の建物に、転落事故を防止するためのフェンスらしきものは見当たらない。また、足場には木材が使われており、まるで鳥の巣のように乱雑に組まれている。

参考記事: 【写真と解説】危険すぎる!金正恩氏が視察した北朝鮮の建設現場

この画像を見た韓国の建築専門家は、デイリーNKの取材に対して「木材の特性上、均一性を保つのが難しく、足場として使うのは限界がある」とし、「見えないところに節目や、虫食いによる『鬆』(す)が入っているおそれがあり、折れれば周囲を巻き込んで崩落する危険性がある」と指摘した。

また、「施工がきちんとしていないせいか、(足場の)柱がゆがんでいる、垂直荷重を支えきれず、見るからに不安だ」とも指摘した。

別の専門家も「資材供給が円滑でないことから、(足場に)木材を使っているものと思われる」「木材を使うことは可能だが、高層建築の場合は限界がある。また、落下防止用のフェンスも設置されていないため、事故のおそれがある」と述べた。

北朝鮮の大規模プロジェクトに、国民の「生き血」を吸わずに完成したものはわずかしかないはずだ。金正恩氏には、建設事業を安全に進めることもまた、指導者の仕事であるということを、1日も早く理解してもらいたい。

[筆者]
高英起(デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト)
北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。関西大学経済学部卒業。98年から99年まで中国吉林省延辺大学に留学し、北朝鮮難民「脱北者」の現状や、北朝鮮内部情報を発信するが、北朝鮮当局の逆鱗に触れ、二度の指名手配を受ける。雑誌、週刊誌への執筆、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に『コチェビよ、脱北の河を渡れ―中朝国境滞在記―』(新潮社)、『金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』(宝島社)、『北朝鮮ポップスの世界』(共著、花伝社)など。近著に『脱北者が明かす北朝鮮』(宝島社)。

※当記事は「デイリーNKジャパン」からの転載記事です。
dailynklogo150.jpg

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ビジネス

英中銀、全会一致で金利据え置き 紛争によるインフレ

ビジネス

スイス中銀、ゼロ金利維持 過度なフラン高に対抗

ワールド

ウクライナ和平交渉が一時中断、イラン紛争勃発で=ロ

ビジネス

パリ控訴裁、SHEINのサイト停止求める仏政府の請
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:イラン革命防衛隊
特集:イラン革命防衛隊
2026年3月24日号(3/17発売)

イスラム神権国家を裏からコントロールする謎の軍隊の歴史と知られざる実力

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「ノーと言えるスペイン」の背景に国防意識...次期スペイン女王は空軍で訓練中、問われる「軍を知る君主」
  • 2
    数時間以内に死に至ることも...若者の間で集団感染が発生し既に死者も、感染源は「ナイトクラブ」
  • 3
    第6回大会を終えて曲がり角に来たWBC
  • 4
    【衛星画像】イラン情勢緊迫、米強襲揚陸艦「トリポ…
  • 5
    韓国製ミサイル天弓-II、イラン戦争で96%迎撃の衝撃 …
  • 6
    温暖化で増えた? サンマやサケ減少の裏で激増する…
  • 7
    モジタバの最高指導者就任は国民への「最大の侮辱」.…
  • 8
    原油高騰よりも米国経済・米株市場の行方を左右する…
  • 9
    ガソリン価格はどこまで上がるのか? 専門家が語る…
  • 10
    観客が撮影...ティモシー・シャラメが「アカデミー賞…
  • 1
    温暖化で増えた? サンマやサケ減少の裏で激増する「安価で栄養価の高い魚」の正体
  • 2
    「ノーと言えるスペイン」の背景に国防意識...次期スペイン女王は空軍で訓練中、問われる「軍を知る君主」
  • 3
    数時間以内に死に至ることも...若者の間で集団感染が発生し既に死者も、感染源は「ナイトクラブ」
  • 4
    米軍も防ぎきれないイランのドローン攻撃──イラン製…
  • 5
    第6回大会を終えて曲がり角に来たWBC
  • 6
    【衛星画像】イラン情勢緊迫、米強襲揚陸艦「トリポ…
  • 7
    職業別の収入に大変動......タクシー運転手・自動車…
  • 8
    ズボンを穿き忘れてる! 米セレブ、下を穿かず「目の…
  • 9
    「日本より、自分の国(フランス)を心配すれば?」…
  • 10
    世界の視線は中東から日本へ...企業主導で築くインド…
  • 1
    温暖化で増えた? サンマやサケ減少の裏で激増する「安価で栄養価の高い魚」の正体
  • 2
    ロシア政府、痛恨のミス...プーチンの「健康不安説」を裏付けるような動画を公式に投稿してしまう
  • 3
    メーガン妃、娘リリベット王女との新ショット公開...撮影はパパ
  • 4
    見事なカンフーを見せた中国ヒト型ロボットのからく…
  • 5
    「ノーと言えるスペイン」の背景に国防意識...次期ス…
  • 6
    アルコールは血糖値を下げる...「脳と血管を守る」医…
  • 7
    「日本より、自分の国(フランス)を心配すれば?」…
  • 8
    「ヘル・コリア」から日本へ7万人 ── 大企業の高給より…
  • 9
    日本の若者「韓国就職」憧れと現実のギャップ ── ビ…
  • 10
    数時間以内に死に至ることも...若者の間で集団感染が…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中