最新記事

インド

インド政府、イスラム系住民400万人の市民権をはく奪へ

India Moves to Strip 4 Million of Citizenship

2018年7月31日(火)17時19分
ダニエル・モリッツ・ラブソン

国民登録簿が公表された日、自分の名前があるか確かめるため並ぶ人々(7月30日、インドのアッサム州)

<半世紀前にバングラデシュから迫害を恐れてインドのアッサム州に逃れてきたイスラム教徒との間に、暴力が再燃する恐れも>

インド当局は7月30日、国民登録簿(NRC)と呼ばれるリストの暫定版を公表した。だがインド北東部にあるアッサム州では、人口3290万人のうち2890万人しか名前がない。400万人近い住民から市民権を剥奪し、国外退去させようとしているのではないか、と懸念が高まっている。

国民登録簿には、1971年3月24日以前からアッサム州に居住していたことが証明できる国民とその子孫が掲載される。しかし、アッサム州に住むベンガル語を母語とするイスラム教徒はその1971年3月24日にパキスタンからの独立を宣言したバングラデシュから数十万人単位で逃げてきた人々で、露骨に国民登録簿から排除されている。

かつて外国人排斥を求めて激しく戦った学生組織とインド政府が1985年に合意したアッサム協定では、1971年3月24日より前からアッサム州に住んでいたことが証明できない者は正式な市民とはみなさないことになったからだ。

国民登録簿はまた、市民であることを証明する政府発行の正式文書など持たない多くのベンガル系住民の排除にも使われる可能性がある。

「本物のインド人」なら心配ない

ヒンドゥー至上主義者とされるインドのナレンドラ・モディ首相は、今回の調査は、アッサムに従来から住んできた民族を守り、不法移民を取り締まるのに役立つと述べた。

シャイレシュ登録長官は、「今日は、アッサム州ならびにインド全体にとって歴史的な日だ」と言った。「私たちは、初めての完全な国民登録簿の暫定版を公表するという節目に至った」。

シャイレシュはさらに、「登録簿の最終版に登録されるための機会は十分に与えられるので、本物のインド市民は心配する必要はない」と述べた。最終版は2018年12月に公表される。

今回公表された国民登録簿の暫定版に名前が載っていない人には、申し立ての機会が与えられるという。誰も直ちに国外追放される人はいないと政府は言う。

アメリカに本拠地を置く人権団体「Avaaz」は、国民登録簿はイスラム教徒をターゲットにしていると懸念を表明した。Avvazのリッケン・パテル事務長は声明で、「複雑で不公平な申し立ての手続きが必要になるのはイスラム教徒だけだ。弁護士と相談する権利もない。申し立てが認められなければ、住み続けられる見込みはない」と述べている。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

印首都の車爆発、当局がテロとの関連含め捜査中 少な

ワールド

焦点:英BBC、「偏向報道」巡るトップ辞任で信頼性

ビジネス

街角景気10月現状判断DIは2.0ポイント上昇の4

ワールド

タイ、カンボジアとの停戦合意履行を停止へ 国防相が
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界最高の投手
特集:世界最高の投手
2025年11月18日号(11/11発売)

日本最高の投手がMLB最高の投手に──。全米が驚愕した山本由伸の投球と大谷・佐々木の活躍

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ドジャースの「救世主」となったロハスの「渾身の一撃」は、キケの一言から生まれた
  • 2
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評家たちのレビューは「一方に傾いている」
  • 3
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 4
    コロンビアに出現した「謎の球体」はUFOか? 地球外…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    インスタントラーメンが脳に悪影響? 米研究が示す「…
  • 7
    中年男性と若い女性が「スタバの限定カップ」を取り…
  • 8
    「座席に体が収まらない...」飛行機で嘆く「身長216c…
  • 9
    レイ・ダリオが語る「米国経済の危険な構造」:生産…
  • 10
    「爆発の瞬間、炎の中に消えた」...UPS機墜落映像が…
  • 1
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 2
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 3
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 4
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評…
  • 5
    「座席に体が収まらない...」飛行機で嘆く「身長216c…
  • 6
    ドジャースの「救世主」となったロハスの「渾身の一…
  • 7
    「遺体は原型をとどめていなかった」 韓国に憧れた2…
  • 8
    筋肉を鍛えるのは「食事法」ではなく「規則」だった.…
  • 9
    「路上でセクハラ」...メキシコ・シェインバウム大統…
  • 10
    クマと遭遇したら何をすべきか――北海道80年の記録が…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 6
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 7
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 8
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 9
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
  • 10
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中