最新記事

人道危機

ロヒンギャ難民に迫るコレラと洪水の新たな脅威

2018年6月13日(水)17時30分
ソフィー・カズンズ

迫害と災害のダブルパンチに襲われる難民を国際社会は見捨てるのか Paula Bronstein/GETTY IMAGES

<虐殺とレイプの嵐から逃れて粗末なテントで暮らすロヒンギャの女性や子供たちにコレラと洪水の悪夢が襲い掛かる>

半年ほど前、妊娠中だったルキアは着の身着のまま故郷の村を後にした。親族のうち、生き残ったのは彼女と老いた母親と甥だけ。3人は3日間、昼も夜も歩き続け、国境を越えてミャンマーからバングラデシュに入った。村が襲撃されて「何もかも焼かれた」と、ルキアは話す。「夫も兄弟も父も......」

昨年夏以降にバングラデシュに逃れたミャンマーのイスラム系少数民族ロヒンギャは70万人近く。大半は女性と子供だ。

難民の大量発生のきっかけは、ミャンマー軍が西部沿岸のラカイン州で行った過激派の掃討作戦だ。兵士らがロヒンギャの村々を襲撃し、男たちを殺して女たちをレイプした。国連が派遣した専門家は「ジェノサイド(集団虐殺)の特徴を示す」状況だと報告した。

現在、難民の大半はバングラデシュ南東部のコックスバザール県の海岸で、急峻な斜面に竹と防水布でテントを立てて暮らしている。ルキアはテントで母親の介添えで出産した。

筆者が難民キャンプを訪れたときは、生後3カ月の子供が下痢をしていたため、彼女はキャンプ内の仮設クリニックで診察の順番を待っていた。

magw180613-rohingya02.jpg

もうじきモンスーンの季節が始まる。豪雨で地滑りや鉄砲水が頻発し、多数の死者が出て感染症がはびこる季節だ。

バングラデシュでは毎年この季節、サイクロン(熱帯低気圧)の直撃によって大きな被害が発生するが、難民キャンプが位置するのは特に暴風雨の被害を受けやすい一帯だ。暴力の嵐から逃れてきた人々が今度は自然の猛威に直面する――援助関係者は迫りくる二重の悲劇に危機感を募らせている。

「最悪の場合どうなるか、想像もできない」と、難民キャンプの衛生状態を継続的に調査している国連スタッフのディディエ・ボワサビは言う。コレラと急性水様性下痢症はバングラデシュの風土病ともいうべき疾患だが、特に雨期に発生率が高まる。

難民キャンプと難民受け入れ地域では、コレラの予防接種キャンペーンが2回実施された。だが接種率は十分ではない。キャンプの衛生状態は劣悪で、飲料水も汚染されており、難民は密集した状態で暮らす。豪雨になればトイレのふん尿があふれ出すため、コレラの流行は避けられそうにない。

「予防接種にばかり力を入れているが、安全な飲料水の確保が先決ではないか」と、国際NGOウォーターエイドのバングラデシュ支部長で医師のカイルル・イスラムは訴える。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

テスラ、ロボタクシー無人走行試験 株価1年ぶり高値

ワールド

インド、メキシコと貿易協定目指す 来年関税引き上げ

ビジネス

フォードEV事業抜本見直し、7車種生産・開発打ち切

ワールド

ウクライナ和平協議、米欧が進展報告も領土問題でなお
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:教養としてのBL入門
特集:教養としてのBL入門
2025年12月23日号(12/16発売)

実写ドラマのヒットで高まるBL(ボーイズラブ)人気。長きにわたるその歴史と深い背景をひもとく

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジアの宝石」の終焉
  • 3
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連疾患に挑む新アプローチ
  • 4
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 5
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切…
  • 6
    アダルトコンテンツ制作の疑い...英女性がインドネシ…
  • 7
    「なぜ便器に?」62歳の女性が真夜中のトイレで見つ…
  • 8
    「職場での閲覧には注意」一糸まとわぬ姿で鼠蹊部(…
  • 9
    トランプが日中の「喧嘩」に口を挟まないもっともな…
  • 10
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 1
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出を睨み建設急ピッチ
  • 2
    デンマーク国防情報局、初めて米国を「安全保障上の脅威」と明記
  • 3
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だから日本では解決が遠い
  • 4
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦…
  • 5
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 6
    【クイズ】「100名の最も偉大な英国人」に唯一選ばれ…
  • 7
    中国軍機の「レーダー照射」は敵対的と、元イタリア…
  • 8
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジア…
  • 9
    人手不足で広がり始めた、非正規から正規雇用へのキ…
  • 10
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 5
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 6
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 7
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 10
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やって…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中