最新記事

北朝鮮情勢

北が米朝蜜月を狙う理由──投資競争はすでに始まっている

2018年6月5日(火)16時20分
遠藤誉(東京福祉大学国際交流センター長)

南北首脳会談 「板門店宣言」に署名したときの金正恩委員長 Korea Summit Press Pool/Reuters

北朝鮮が米朝首脳会談後、米朝蜜月を狙う理由は二つ。一つは防衛面での安全性で、もう一つは米中露韓の対北投資競争を誘うことだ。事実、金英哲は訪米で既に元山カジノ観光地への米投資をトランプに要請したという。

金正恩、元山(ウォンサン)カジノに米投資を要請

金正恩委員長の特使として訪米しトランプと会談した金英哲(キム・ヨンチョル)副委員長が、会談の際、トランプ大統領に「北朝鮮が完全かつ迅速な非核化に乗り出す代わりに、まずはアメリカ独自の金融制裁の解除を求め、金正恩が目玉としている元山(ウォンサン)観光地のカジノ事業などへの投資を要請した」という。

6月5日早朝に、関西大学の李英和(リ・ヨンファ)教授から連絡があった。詳細を論議している間に、韓国の東亜日報が<金正恩氏「元山カジノに米が投資を」>という日本語版を公開したことを知らせて頂いたので、先ずはその情報を精査してみることとする。

それによれば、金英哲副委員長は「トランプ政権が望む完全かつ迅速な非核化に乗り出せる」という金正恩委員長のメッセージを具体的に伝え、「非核化措置にともなう補償として段階的制裁緩和の可能性も打診した」という。

段階的制裁緩和の可能性に関しては、6月4日のコラム「トランプ氏は北に譲歩したのか?」で考察したので、本日のこのコラムでは「米資本の対北投資」打診が周辺諸国に与える影響に関して焦点を当ててみたい。

李教授によれば北朝鮮の内陸部では米ドルが通貨となっているのに近い現状があるとのこと。だとすれば、米主導の金融制裁でドル貨幣へのアクセスが遮断され、ドル決済ができないのは厳しいことだろう。中国やロシアとの国境沿いでは人民元やルーブルが使われているが、そこにこそ逆に新たな投資合戦が展開される空間が存在する。

中国は既に経済支援準備

中国は今年3月に開催された全人代(全国人民代表大会)における国務院機構改革方案の中で、「国家国際発展合作署」という部署を新たに設けることを決議している。その事務所の看板なども4月18日に披露された。

中国は昨年11月17日のコラム<北朝鮮問題、中国の秘策はうまくいくのか――特使派遣の裏側>に書いたように、中共中央対外聯絡部(中聯部)の宋濤(そう・とう)部長が11月17日~20日、北朝鮮を訪問した。このときは金正恩委員長には会えなかった(と発表されている)ようだが、今年4月12日のコラム<北朝鮮、中朝共同戦線で戦う――「紅い団結」が必要なのは誰か?>に書いたように、金正恩委員長の電撃訪中の際の北京行きの列車の中には宋濤部長の姿があった。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

ユーロ圏CPI、4月はサービス上昇でコア加速 6月

ワールド

ガザ支援の民間船舶に無人機攻撃、NGOはイスラエル

ワールド

香港警察、手配中の民主活動家の家族を逮捕

ビジネス

香港GDP、第1四半期は前年比+3.1% 米関税が
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に高く、女性では反対に既婚の方が高い
  • 2
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来が来るはずだったのに...」
  • 3
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が書かれていた?
  • 4
    インドとパキスタンの戦力比と核使用の危険度
  • 5
    日々、「幸せを実感する」生活は、実はこんなに簡単…
  • 6
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 7
    ウクライナ戦争は終わらない──ロシアを動かす「100年…
  • 8
    目を「飛ばす特技」でギネス世界記録に...ウルグアイ…
  • 9
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新…
  • 10
    悲しみは時間薬だし、幸せは自分次第だから切り替え…
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 4
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 5
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 6
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に…
  • 7
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来…
  • 8
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が…
  • 9
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 10
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 9
    クレオパトラの墓をついに発見? 発掘調査を率いた…
  • 10
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中