最新記事

脱北者

攻勢強める北朝鮮 韓国メディアの「脱北謀略説」利用し集団脱北者の返還求める

2018年5月21日(月)19時09分
ニューズウィーク日本版ウェブ編集部


北は文在寅政権も批判

こうした北朝鮮レストラン従業員脱北事件が韓国側による「謀略」だったという報道を受けて、北朝鮮は韓国側への攻勢を強めてきたというわけだ。その矛先は事件の首謀者である朴槿惠前大統領だけに留まらず、現在の文政権にも向けられた。

北朝鮮の赤十字中央委員会報道官は朝鮮中央通信の記者のインタビューに「人間の仮面を被った朴槿惠という悪魔たちに強制拉致された北朝鮮の女性公民の悲痛な叫びや呪いは、保守勢力の卑劣な謀略的正体と醜悪な足跡を天下に暴露する歴史の告発状になっている。保守勢力によって強制拉致された北朝鮮の女性公民を即刻送還することと、朴槿惠をはじめとする事件の関係者に対する司法措置、当局の公式謝罪と再発防止を強く要求するのはあまりにも当然だ」と指摘した。

さらに「看過できないのは当然この問題を担当し処理しなければならない南朝鮮当局が曖昧な態度を取って、内外世論の要求を無視していることだ」と、文在寅政権の態度も批判している。

このため、このままでは板門店宣言で合意した離散家族再会事業が開催できないという声が出ている。ク・ガプウ北朝鮮大学院大学教授は「(この問題が)離散家族再会と連携される可能性が大きい。北朝鮮が韓米首脳会談(22日)、米朝首脳会談(6月12日)を控えて、攻勢を強めることで譲歩を引き出そうとする狙いもありそうだ」と話した。コ・ユファン東国大学教授は「南北が原則的立場を堅持すれば、当然、離散家族再会事業に影響を与えるだろう。(韓国メディアが継続して脱北事件を報道している状況で)北朝鮮は北朝鮮で、自分たちの立場を主張せざるをえなかっただろう。だが今後、南北が(問題解決に向けて原則論を)回避する方策を見い出し、(板門店宣言を)合意通り履行する可能性もある」と展望した。

一方、大統領府関係者は「北側が柳京食堂の脱北した従業員の送還問題を提起しているのは、体制安全保障という部分に対する具体的な約束がないため、これまで交渉のテーブルで取り上げた問題を取り上げてきたものとみられる。北としては非核化に関してこれまで自分たちができるための行動を取ってきたのに対して、自分たちが望む体制安全保障問題については、具体的な約束がないと思っているようだ。米韓首脳会談で、これに対する本質的で核心的な問題の方向性が決まれば、この(北朝鮮レストラン従業員脱北事件)問題も一緒に解決できると考えている」と話した。これについて大統領府の周辺では文大統領が米韓首脳会談で、トランプ大統領に北朝鮮側の不安と要求する部分について説明しながら米国側に具体的な措置を要請することもできるという見通しが出ている。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米国株式市場=急落、ダウ251ドル安 米銀大手トッ

ビジネス

NY外為市場=ドル、対ユーロで4カ月ぶり高値 米の

ワールド

米大統領、食料支援「政府再開までない」 人権団体は

ワールド

米IBM、第4四半期に人員削減 数千人規模の可能性
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:高市早苗研究
特集:高市早苗研究
2025年11月 4日/2025年11月11日号(10/28発売)

課題だらけの日本の政治・経済・外交を初の女性首相はこう変える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 2
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 3
    「あなたが着ている制服を...」 乗客が客室乗務員に「非常識すぎる」要求...CAが取った行動が話題に
  • 4
    「日本のあの観光地」が世界2位...エクスペディア「…
  • 5
    これをすれば「安定した子供」に育つ?...児童心理学…
  • 6
    高市首相に注がれる冷たい視線...昔ながらのタカ派で…
  • 7
    虹に「極限まで近づく」とどう見える?...小型機パイ…
  • 8
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 9
    【HTV-X】7つのキーワードで知る、日本製新型宇宙ス…
  • 10
    「白人に見えない」と言われ続けた白人女性...外見と…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読み方は?
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    【ウクライナ】要衝ポクロウシクの攻防戦が最終局面…
  • 6
    9歳女児が行方不明...失踪直前、防犯カメラに映った…
  • 7
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
  • 8
    女性の後を毎晩つけてくるストーカー...1週間後、雨…
  • 9
    「日本のあの観光地」が世界2位...エクスペディア「…
  • 10
    だまされやすい詐欺メールTOP3を専門家が解説
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になり…
  • 5
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 6
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 7
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 8
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 9
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
  • 10
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中